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くれげの世界  作者: ぐろ
18/65

第18話 一緒に泣こう

 二回戦、中盤。


 盤面は、崩れかけていた。


 アームの可動域。

 景品の重心。

 角度、摩擦、落下点。


 ——計算は、合っている。


 それでも。


(……取れない)


 凛は、唇を噛んだ。


 正しい手は、もう尽くした。

 理論上の最適解は、すべて外れた。


 正しいのに、勝てない。


 視界の端で、売田が静かに頷くのが見えた。

 無駄のない動き。

 確実に利益を積み上げるプレイ。


 ——正しさ。


 それは、ずっと自分の武器だったはずなのに。


「……詰んだ?」


 成宮の弱気な声。


 沙希は、明るく言う。


「ま、ここから逆転とか燃えるでしょ」


 無責任な冗談。

 でも、責める気にはなれなかった。


 そのとき。


「ね〜ね〜、優等生」


 詠が、横から覗き込む。


「……何?」


「脳汁、出したことある?」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。


「……は?」


「計算とか理屈とかじゃなくてさ。

 “やっべ”ってなるやつ」


 詠は、盤面を指さす。


「そこ。

 普通はやらない取り方」


 雨瑠は、目を見開いた。


 ——無茶だ。


 アームの力も、角度も足りない。

 成功率は、限りなく低い。


(そんなの……)


「理論的じゃない」


 絞り出した言葉に、詠は笑った。


「うん。

 だから賭けるの」


 胸の奥が、ざわつく。


 理解できない。

 納得もできない。


 それでも。


 ふと、すきと目が合った。


 何も言わない。

 ただ、静かに見ている。


 沙希は、へらへらしてる


「ま、詠が言うなら面白そうじゃん?」


 成宮は、震えながらも言った。


「……失敗したら、一緒に泣くよ」


 ——失敗しても。


 一人じゃない。


 その言葉が、胸に落ちた。


(……ああ)


 私は。


 正しい手を選び続けて、

 間違える覚悟を、誰とも共有してこなかった。


「……やる」


 凛は、レバーに手をかけた。


 理論を、捨てる。

 正しさを、手放す。


 ——賭ける。


 アームが、動く。


 側面に触れ、

 景品が、わずかにずれる。


 止まる。


 一瞬の、静寂。


 ——落ちた。


 景品が、獲得口へ転がり込む。


 一拍。


「……え」


 成宮の声が、遅れて漏れた。


「っしゃあああああ!!」


 沙希が、思い切りガッツポーズを決める。


「ほら見ろ!

 たまには優等生もハメ外すんだって!」


 成宮は、両手で顔を覆ったまま叫んだ。


「やっ……やった……!

 今の、マジでヤバいって!」


 詠は、すぐには笑わなかった。


 小さく息を吸い、

 ぞくりと震える。


「……っ、はぁ……」


 そして、歪んだ笑み。


「ね?

 脳汁、出たでしょ」


 すきは、騒がない。


 獲得口を見つめ、

 それから凛を見る。


 ゆっくりと、頷いた。


 それだけで。


 胸の奥が、熱くなる。


(……一人じゃない)


 取れた瞬間に、

 それが、はっきり分かった。


 凛は、静かに相手チームに言った。


「あなたたちは——

 いつも正しい手を選ぶ」


 視線を、仲間に向ける。


「でも……

 間違える覚悟を、共有しない」


 モニター越しに、協会長が微笑んだ。


「なるほど。

 論理を捨てたのではない。

 ——論理を、他者に預けたか」


 盤面が、静かに映し出される。


 二回戦、決着。


 勝者——昏華チーム。


 凛は、胸に残る余韻を、そっと抱きしめた。


 これは、

 初めて誰かと分け合った——


 間違いの味だった。

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