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くれげの世界  作者: ぐろ
最終章“ 神域編”
175/205

第173話 尊敬してるさ

静まり返る会場。


先に動いたのは——全だった。


大胆な一手。


アームを深く入れ、

箱の位置を大きく崩す狙い。


観客がざわめく。


だが——


次の瞬間。


零のアームが動く。


そして止まった位置は、


全と

まったく同じ。


「……は?」


「同じだ」

「完全に一致してる」


「まさか……わざと?」


全が舌打ちする。


零の表情は変わらない。


ただ静かに、


余裕をまとっていた。



二手目


全は箱の下角をすくい上げるように触れる。


傾きが整い、形が安定する。


「上手い!」


花形が思わず声を上げる。


だが。


零は一手目と同じように、


まったく同じ動きで

まったく同じ形に整えた。


観客席がどよめく。


統が小さく笑う。


「……あぁ、ほんといい性格してるなぁ」



零が口を開く。


「おい」


全は睨み返す。


「初期位置戻し……だったか?」


一瞬の静寂。


「特別に使ってもいいぞ」


会場がざわめく。


実況が慌てて声を上げた。


「一条選手が九条選手に

 初期位置戻しの特別ルールを提案!」


「会長、この場合どうなるんでしょう?」


会長は静かに答える。


「本人同士の合意のもとなら、構わん」


「というわけで——

 初期位置戻し使用可能です!」


観客がざわつく。


全が低く言う。


「……バカにしてんのか?」


零は肩をすくめた。


「いや、尊敬してるさ」


一拍。


「このクレーンゲームブームの立役者、

 協会会長様の——バカ孫をな」


空気が凍る。


全の拳が震える。


「……使わねぇよ」


零はやれやれ、と小さく息を吐いた。



三手目


全が動く。


——いや。


零のアームが、


コンマ何秒、


早く動いた。


ほぼ同時。


同じ位置。

同じ狙い。


二本のアームが同時に降りる。


持ち上がる。


傾く。


落ちる。


ゴトン。


音は——


ひとつだった。



「勝者——

 一条 零!!」


会場が爆発する。


圧倒的格差。


完全なる支配。


下克上は——


成立しなかった。


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