第172話 扉無き者
アナウンスが会場に響く。
「第三ラウンド、続いての試合——」
一拍の静寂。
「Dランク
九条 全」
ざわ…
「対するは——」
「Sランク
一条 零」
どよめきが走った。
「おい、あいつだろ」
「S倒すって言ってたやつ」
「相手一条かよ…」
「終わったな」
「死んだろ…」
会場の空気は、圧倒的に零優勢。
それでも——
全は、逃げなかった。
⸻
全の応援席
すきが腕を組み、軽く笑う。
「いいとこ見せてよ」
羽澄が指先でハートを作る。
「全くん、ちょっとスマイル足りないかなぁ♡」
ジョーは何も言わない。
ただ静かに手を組み、祈る仕草。
花形は身を乗り出した。
「先輩、負けないでください!
Dランク全員、先輩の味方ですから!」
売田が前のめりになる。
「お前よぉ、Sに勝ったら年収2000万で——
おい、お?
ウハウハだぞ? お?」
「今それ言う!?」
羽澄が吹き出す。
笑いが起きる。
その声に、全の肩の力が少し抜けた。
深く息を吐く。
(……大丈夫だ)
⸻
零の応援席
下衆田が拳を握る。
「零様!
格の違いを見せつけてくださいでげす!」
神代統は腕を組み、穏やかに笑う。
「番狂わせは……ないですかね?
ふふ」
零は応えない。
ただ一言。
「……ふん」
そして、静かに台へ向かって歩き出す。
その背中に、無駄は一切ない。
⸻
対峙
片や——
扉無きDランク。
片や——
境地に至りしSランク。
静寂。
張り詰めた空気。
誰もが理解していた。
これは——
圧倒的格差の試合。
だが同時に、
歴史的な下克上の可能性。
⸻
アナウンスが響く。
「それでは——」
「試合、開始」




