第170話 日頃の行い
会場のざわめきは、まだ収まらなかった。
神代統の一手。
あまりにも静かで、
あまりにも決定的だった。
バズ子は、しばらく台を見つめていた。
それから、ふっと笑う。
悔しさはある。
でも、不思議と嫌な負けじゃない。
(……統くん)
背中を向けて去っていく統。
その背中が――
ほんの少しだけ、寂しそうに見えた。
バズ子は、その理由を誰にも言わない。
ただ、小さく息を吐いた。
「負けちゃった♡」
明るく言うと、
観客席から拍手が起きた。
先ほどまでの歓声とは違う、
優しい拍手だった。
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控え席。
零は腕を組んだまま、視線すら向けない。
「……所詮、相手はBランクだ」
だが、すきは気づいていた。
(違う)
ほんの一瞬だけ、
零の目が揺れた。
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会場アナウンスが響く。
「第二ラウンド、全試合終了しました」
ざわめきが広がる。
電光掲示板に、残存人数が表示された。
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■ 現在の勝ち残り
Sランク 3名
一条零
神代統
雪平杏
Aランク 4名
昏華すき
売田転
他2名
Bランク 7名
Dランク 1名
九條全
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「おいおい…」
売田が口を開く。
「マジかよ…」
「Dランク生き残ってんじゃねぇか」
全は、少しだけ肩をすくめた。
「運がいいだけだ」
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アナウンスが続く。
「第三ラウンド進出者は15名となります」
「なお、1名は抽選により不戦勝となります」
会場がざわつく。
「不戦勝だって?」
「誰だ?」
「ここで運かよ…」
抽選箱が運ばれてくる。
静まり返る会場。
カードが引かれる。
一瞬の沈黙。
「第三ラウンド不戦勝――」
「売田転選手」
ざわめきが爆発した。
「マジかよ!」
「持ってるなあの人!」
「運まで転売してんのか!」
「うるせぇ!!」
売田が叫ぶ。
「これはな!日頃の行いだ!!」
「持ってますね♡」
羽澄が笑った。
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すきは、売田を見る。
(嵐の前の静けさ)
そんな気がした。
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電光掲示板が切り替わる。
第三ラウンド
明日 開始
会場の空気が、ゆっくりと張り詰めていく。
次に落ちるのは、誰か。
次に残るのは、誰か。
そして――
その先にあるものを、
まだ誰も知らない。
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第三ラウンドは、明日から




