第168話 光栄
歓声の余韻が、
まだ会場に残っている。
売田の勝利。
Aランク昇格。
下克上の熱気は、
観客の体温を上げたままだった。
だが——
モニターに次の対戦が映し出された瞬間、
空気が変わる。
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【次試合】
Bランク
羽澄 京子
VS
Sランク
神代 統
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ざわめきが広がる。
「統だ……」
「マジか」
「Sランクの中でも一番人気だろ」
「対するは……」
「バズ子!」
「これは盛り上がるぞ……」
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観客席の空気は、
一条零の試合とは違っていた。
張り詰めた静けさではない。
期待。
高揚。
楽しみ。
そんな熱。
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「おー、来た来た」
神代統は、
軽く肩を回しながら笑っていた。
まるで緊張感がない。
周囲のプロたちにも、
スタッフにも、
観客にも、
同じ笑顔を向ける。
「いいねぇ、この空気」
「試合って感じする」
通りすがりのDランク選手にまで声をかける。
「昨日のプレイよかったよ」
その選手は目を丸くした。
「え…覚えてるんですか?」
「そりゃ覚えてるよ」
統は笑う。
「みんな、同じ舞台に立ってる仲間だろ?」
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控え席。
羽澄は、
鏡の前で髪を整えていた。
指先が止まる。
遠くから聞こえる声。
「統ー!」
「頑張れー!」
歓声の量が、
違う。
その瞬間。
昔の声がよぎる。
——地味子。
——目立たない。
——いてもいなくても同じ。
羽澄は、
小さく笑った。
「……あの頃の私が見たら」
口元が上がる。
「腰抜かすわね♡」
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すきが近づく。
「……緊張、してますか?」
「してるわよ♡」
即答。
「だって相手、
統くんだもの」
一拍。
「でもね」
バズ子は振り返る。
「こういう舞台のために、
ここまで来たのよ」
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少し離れた場所。
統が軽く手を振る。
「羽澄さん!」
「今日、
めちゃ楽しみにしてたんだ」
羽澄は目を細める。
「光栄ね♡」
統は笑う。
「全力で来てよ」
「俺も全力で行くから」
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観客席の熱が高まる。
期待と歓声が渦巻く。
実況が声を張り上げる。
「さあ次は!!」
「魅せるプレイの羽澄京子!」
「そして!!」
「楽しむ天才、神代統!!」
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羽澄は、
台の前に立つ。
統も、
向かいに立つ。
統は笑っている。
羽澄も、
笑っていた。
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歓声の質が違う。
恐れではなく、
期待。
緊張ではなく、
祝祭。
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試合開始のブザーが鳴る。
次に会場を沸かせるのは——
どちらだ




