第167話 極転売回し
売田の操作
アームが降りる。
右アームが箱の側面を撫でるように
立ち上がる
箱は一瞬、
静止したように見えた。
“ 極転売回し”
回転。
滑り。
重力に導かれるように、
落ちる。
ゴトン。
静かな音。
だが、
次の瞬間——
「落ちたあああああ!!」
実況の絶叫が会場を揺らした。
「売田選手!!
極転売回し成功ォ!!」
「Aランク金剛良樹を相手に、
完璧な一手!!」
観客席が爆発する。
「うおおおお!!」
「マジかよ!!」
「今の見たか!?」
金剛は静かに盤面を見つめていた。
そしてゆっくり息を吐く。
「……見事だ」
その一言に、
悔しさも、言い訳もなかった。
ただ、
認めていた。
⸻
売田は——
動かなかった。
ボタンから手を離したまま、
立ち尽くしている。
歓声も、
実況も、
遠くに聞こえる。
(……)
(……あれ?)
(終わった?)
(……勝ったのか?)
⸻
「売田ぁあああ!!!」
全が飛び込んでくる。
「やったじゃねぇか!!」
バズ子が笑う。
「ちょっとアンタ!
かっこよすぎでしょ♡」
すきが息を弾ませる。
「売田さん……
本当にすごいです」
雪平が柔らかく微笑む。
「努力が、
実りましたね」
売田はまだ現実感がなかった。
「……え?」
「……おれ?」
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少し離れた場所。
ジョーが立っていた。
何も言わない。
ただ、
静かに、
微笑んでいた。
⸻
実況が続く。
「これにより——」
「売田転、
Aランク昇格が確定しました!!」
会場が再びどよめく。
「マジかよ!!」
「Cからここまで……」
「下克上だ……」
⸻
売田の視界が揺れる。
仲間の顔。
歓声。
照明。
盤面。
⸻
(……おれが)
(……勝った?)
⸻
胸の奥が、
じんわりと熱くなる。
だが涙は出ない。
ただ——
ふわふわしていた。
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全が肩を叩く。
「おいAランク」
バズ子がニヤリ。
「年収アップね♡」
すきが笑う。
「おめでとうございます」
ジョーが小さく頷く。
雪平が言う。
「ここからですよ」
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売田は、
ようやく笑った。
少し照れくさそうに。
「……まいったな」
「ほんとに、
上がっちまった」
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会場のモニターに、
新しい表示が映し出される。
【売田 転】
C → B → A
昇格確定。
年収1200万円
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その瞬間。
歓声が、
祝福のように降り注いだ。
⸻
売田転
Aランク昇格。




