第165話 ガンギマリ
試合開始の合図。
売田は、
肩をぐるぐる回していた。
「よぉし……来てる来てる来てる……」
目が、
ガンギマっている。
「これだよこれぇ……
バフの姉ちゃん最高だぜぇ……!」
後ろで、
すきが小声で言う。
「……ちょっと怖い」
全が腕を組む。
「完全に中毒者だな」
バズ子は腹を抱えて笑っている。
「やば♡目がイッちゃってる♡」
ジョーは無言で頷いた。
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対する金剛良樹は、
静かだった。
呼吸一つ、
乱れない。
台を見つめる目は、
湖面のように揺れない。
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「第一手、売田選手!」
実況が響く。
売田の手が、
素早く横移動を決める。
迷いがない。
奥行。
寸分のズレもない位置。
「行くぞぉ!!」
アームが降りる。
掴む。
持ち上がる。
そして――
売田の十八番。
転売回し。
箱が回転しながら
姿勢を整え、
橋の中央へ滑り込む。
観客席がどよめく。
「おおっ!」
「いきなり形作った!」
「早い!」
実況が叫ぶ。
「売田選手、得意の転売回し!
一手で盤面を整えました!」
売田はニヤリと笑う。
「調子いいじゃねぇか……!」
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二手目。
再び回す。
箱が回転し、
橋の外側へ寄る。
落ちる寸前。
止まる。
観客が身を乗り出す。
「うまい!」
「リーチ近いぞ!」
売田は舌を鳴らす。
「見えてきたぜ……!」
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「対する金剛選手、第一手!」
金剛が、
静かにボタンに触れる。
ゆっくり。
極めてゆっくり。
横移動。
奥行。
無駄がない。
アームが降りる。
強く入ったように見えた。
だが――違う。
角に触れた瞬間、
力を逃がすように角度を変える。
滑る。
流れる。
箱が、
自ら動いたかのように
姿勢を変えた。
会場がざわめく。
「今の何だ?」
「押してないぞ…」
「触れただけだ!」
実況の声が震える。
「金剛選手、重心を崩しました!
最小の接触で大きく動かしています!」
⸻
二手目。
再び静かに触れる。
押さない。
ぶつけない。
流す。
箱が回転し、
理想的な角度へ。
「まるで……」
観客が呟く。
「箱の方が動きたい方向に動いてるみたいだ」
実況:
「これは合気道の“崩し”に近い動き!
力で動かすのではなく、
流れを利用している!」
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売田の笑みが、
わずかに引きつる。
(……なんだこいつ)
(力使ってねぇ)
(触ってるだけで動かしてやがる)
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金剛の動きは、
まるで呼吸だった。
押さない。
抗わない。
導くだけ。
扉解放者の操作。
無駄が、
一切ない。
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実況
「さすがAランク!
金剛良樹選手、
完成度の高いプレイを見せています!」
観客席
「伊達じゃない…」
「動きが違う…」
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売田は、
深く息を吐く。
だが次の瞬間。
口元が吊り上がる。
「……いいじゃねぇか」
「面白くなってきた」
背後で、
統が楽しそうに笑う。
「いいねぇ〜!
ぶつかってきたねぇ〜!」
零は、
冷たい目で見下ろしていた。
「……Bランクの限界だ」
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盤面は整い、
両者ともリーチ圏内。
静寂。
張り詰める空気。
実況が息を呑む。
「次の一手で――
試合が動く可能性があります!」
売田が、
ボタンに手を置いた。
金剛が、
静かに構える。
力で動かす者と、
流れで導く者。
交差する視線。
次の瞬間、
何かが起きる。
——勝負は、
ここからだった。




