第163話 意思の継承
アナウンスが静かに響く。
「第三試合
九條 全 対 大門 帝」
会場の空気は、
一条零の試合ほど張り詰めてはいない。
だが。
静かな期待があった。
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観客席。
花形鈴は、
手を握りしめていた。
憧れの九條先輩。
そして――同期の大門。
応援したい相手が、二人いる。
胸の奥が、苦しい。
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ステージ。
大門帝は静かに息を吐いた。
視線の先には、九條全。
同じDランク。
だが。
同じ場所に立っている気がしない。
(統はSランク)
(俺はDランク)
(でも――)
(九條先輩は)
(同じDランクなのに)
(上を見ている)
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過去
練習台の前。
統のプレイ。
迷いのない操作。
無駄のない軌道。
静かに落ちる景品。
ゴトン。
周囲がどよめく。
大門は、自分の番で同じことを試した。
届かない。
ズレる。
崩れる。
統は笑った。
「帝くん、惜しいね!
もう少しだよ!」
眩しい笑顔。
(くそ……)
(悔しいのに)
(嫌いになれない)
圧倒的な差。
それでも、
統は一度も見下さなかった。
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現実へ。
試合開始の合図。
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大門のプレイは丁寧だった。
九條の操作は無駄がない。
派手さはない。
だが――
確実に上手い。
観客が小さく呟く。
「堅実だな」
「いい勝負だ」
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花形は、祈るように見ていた。
(どっちも……負けてほしくない)
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中盤。
箱がリーチに近づく。
大門は静かに口を開いた。
「九條先輩」
「ん?」
「Sランク倒して
この制度壊すって言ってましたけど」
一瞬、静寂。
「本気ですか?」
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九條は迷わなかった。
視線は盤面のまま。
「おれは」
一拍。
「嘘はつかない」
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その瞬間。
大門の胸の奥で、何かが落ちた。
(ああ……)
(同じDランクでも)
(こんなに違うのか)
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終盤。
九條の一手。
アームが下りる。
掴む。
持ち上げる。
そして――
ゴトン。
静かな決着。
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大門は目を閉じた。
負けた。
だが。
胸の中にあった重さは、消えていた。
(統)
(俺はまだ遠い)
(でも――)
(道は見えた)
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試合後。
大門は軽く笑った。
「Dランクの望みは」
一歩下がる。
「託しました」
少し照れたように続ける。
「できれば――」
「倒すSランクは」
小さく笑う。
「統以外でお願いします」
「一応、同期なんで」
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九條は苦笑した。
「知らねぇよ」
一拍。
「でも、任せとけ」
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観客席。
花形の目から、涙がこぼれていた。
悔しい。
でも。
胸が温かい。
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統は腕を組み、静かに頷いた。
「帝くんらしいなぁ」
少し笑う。
「ちゃんと前に進んでる」
視線を全へ向ける。
「九条先輩――」
「楽しみですね」
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その近くで。
一条零は無言のまま立っていた。
興味なさそうに視線を逸らす。
だが、
ほんの一瞬だけ。
全の背中を見ていた。
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静かな拍手が広がる。
大歓声ではない。
だが確かな、
敬意の拍手だった。
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Dランクの意思は、確かに託された。
そして――
その重みを背負った男が、
次の戦いへ向かう




