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くれげの世界  作者: ぐろ
最終章“ 神域編”
161/205

第159話 A対S

「次の試合は――」


アナウンスが途切れる前から、

会場の空気が変わり始めていた。


ざわめきは、期待のざわめき。


観客の視線が、

一人の男へと集まる。


一条 零。


Sランク。


二期生。


頂点に立つ者。


零はゆっくりと歩き、

試合台の前で立ち止まった。


その目に、感情はない。



試合開始前。


零は、進行スタッフではなく——

協会席へ向かって歩いた。


会場がざわつく。


「……?」


零は会長を見上げる。


「確認したい」


静かな声。


「Sランクは勝ってもメリットが無い」


会場がざわめいた。


続ける。


「下位を蹴落とすだけの儀式なら、

 参加する意味はない」


ざわめきが広がる。


空気が張り詰める。



会長は微動だにしなかった。


ゆっくりと口を開く。


「この入れ替え戦後——」


静かな声が、会場の隅々まで届く。


「Sランクだった者には、

 私の権限内で叶えられる望みを叶えよう」


一瞬の沈黙。


次の瞬間。


「おお……」

「マジか……」

「なんでも?」


会場がどよめいた。


零の目が、わずかに細まる。


「……なるほど」


それだけ言うと、

零は台へ戻った。



観客席の熱が一段上がる。


「望みを叶えるって何だ?」

「賞金じゃないのか?」

「推薦権?スポンサー?」


期待と興奮が渦巻く。



対戦台の反対側。


ジョーは静かに立っていた。


まるで、

嵐の外にいるような静けさ。


呼吸は一定。


視線は盤面。


何も揺れていない。



そこへ。


「ジョー」


すきが声をかける。


全、売田、バズ子も並ぶ。


「……来たな」


売田が腕を組む。


「相手はSランクだ」


「零だぞ」


全が言う。


「だからなんだ」


ジョーは静かに答える。


声に力みはない。



バズ子が笑う。


「今日一番の舞台よ♡」


売田がニヤリとする。


「盛り上げてこいよ」


全が肩を叩く。


「1期生の意地、見せてやれ」


すきはまっすぐ目を見る。


「楽しんできてください」



ジョーは少しだけ驚いた顔をした。


そして。


小さく笑った。


「……ああ」


短い返事。


それだけ。


だが。


その一言に、

不思議な安心感があった。



ジョーが台へ向かう。


観客のざわめきが強まる。


「Aランクが零に挑むのか」

「無理だろ……」

「いや、ジョーは違うぞ」


空気が熱を帯びていく。



零はすでに盤面を見ていた。


視線は動かない。


だが——


耳が、わずかに震えている。


絶対音感。


アームの微かな振動音。

モーターの唸り。

筐体の共鳴。

硬貨の残響。


すべてが音として届く。


盤面の「状態」が、

音として視える。



ジョーは台の前に立つ。


静寂。


まるで音が消えたような空間。


零がゆっくり視線を向ける。


「……静かだな」


ジョーは答える。


「B以下に大事な仲間がいる」


零の眉が、わずかに動く。



アナウンスが響く。


「本日最注目の一戦!」


「Aランク

 ジョー!」


歓声。


「対するは——」


「Sランク

 一条 零!!」


会場が爆発する。


歓声。


拍手。


熱気。


期待。



すきは拳を握る。


全はニヤリと笑う。


売田は腕を組む。


バズ子はスマホを構える。


観客席の統が楽しそうに手を振る。


零の信者たちが叫ぶ。


空気が、沸騰する。



だが。


対戦台の中央だけは。


静かだった。



「試合開始準備——」


一拍。


静寂。



今日一番の大一番。


Aランク ジョー

vs

Sランク 一条零



開幕。

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