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くれげの世界  作者: ぐろ
最終章“ 神域編”
152/205

第150話 昇格

ざわめきは、すぐには戻らなかった。


勝敗は明確だった。


だが会場は――

静まり返っていた。



「……勝者、売田転!」


遅れて響いたアナウンスに、


ようやく空気が動く。


拍手が起こる。


だがそれは、

歓声というより――


理解しようとする拍手だった。



売田は景品を手に取り、

軽く肩を回した。


「……ふぅ」


いつもの軽口は出ない。


だが代わりに、

どこか吹っ切れた顔をしていた。



「やりましたね売田さん!」


羽澄が駆け寄る。


「Bランク昇格確定ですよ♡」


売田の眉がぴくりと動く。


「……マジか」


一拍。


「年収アップじゃねぇか」


会場の緊張が、

一瞬でゆるんだ。


笑いが漏れる。


「そこかよ!」

「ブレねぇ!」



九條全が腕を組む。


「……でもよ」


視線は盤面。


「すげぇ試合だった」


売田は鼻で笑う。


「当たり前だろ」


少し間を置いて。


「本気で来られたからな」



一方。


下衆田は、

その場から動けずにいた。


照明。

観客。

ざわめき。


何も耳に入らない。


ただ、


自分の手だけを見ている。


(……負けたでげす)


だが、

それ以上に胸を占めていたのは、


別の感覚だった。



観客席の上段。


一条零は、

静かに試合を見下ろしていた。


表情は変わらない。


拍手もしない。


ただ、

目だけが細められている。


隣の関係者が小さく言う。


「予想外でしたね」


零は答えない。


視線の先には、

売田ではなく――


下衆田。



「……弱い」


零は小さく呟く。


だがその声には、


苛立ちではなく、


測るような響きがあった。



月刊クレーンゲーム記者・聞見描は、

メモを止められなかった。


「ランク制度導入後、

 初の波乱――」


ペンが走る。


「思想がぶつかり始めている」



場内モニターに、

試合結果が表示される。


《売田転 勝利》

《C → Bランク昇格》


観客がどよめく。


「もう昇格!?」

「ランク戦えぐいな…」



九條全が、

モニターを見上げる。


そして――


静かに言った。


「待ってろよ」


誰に向けた言葉でもない。


だが確かに、


上を見ていた。



売田が通り過ぎざま、

全の肩を軽く叩く。


「次、お前だ」


全はニヤリと笑う。


「見てろ」



遠くで。


下衆田が、

ゆっくり歩き出した。


向かう先は――


観客席上段。



会場の空気が、

わずかに張り詰める。



ランク入れ替え戦。


ただの序列争いではない。


価値観が、


ぶつかり始めていた。

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