第149話 流儀
照明が、揺れる。
ほんの一瞬。
売田の視界が白く滲んだ。
「……ちっ」
だが、もう焦りはない。
箱の位置。
重心。
橋の幅。
すべて、見えている。
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反対側。
下衆田の指先は震えていた。
(なぜでげす……)
ローション。
照明。
重量調整。
ここまでやった。
完璧な妨害。
なのに。
(なぜ崩れないでげす……)
売田は、止まらない。
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アームが降りる。
掴む。
揺らす。
箱が、回転しながら形を整える。
観客席がざわめいた。
「また回した……」
「転売回しだ」
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下衆田の呼吸が荒くなる。
(違う……)
(こんなはずでは……)
零様は言った。
強さとは、
比較にならない差だと。
圧倒的な差でねじ伏せろと。
ならば。
なぜ。
この男は。
倒れない。
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売田が、静かに言う。
「お前さ」
下衆田がびくりと震える。
「誰の為にやってんだ?」
言葉が、刺さる。
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アームが降りる。
沈む。
持ち上がる。
箱が橋の外へ滑る。
ゴトン。
会場が揺れた。
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静寂。
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下衆田の口が、
開いたまま動かない。
負けた。
理解できない。
だが。
胸の奥で、
なにかが崩れていた。
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売田は、景品を取り出しながら言った。
「強ぇやつに憧れるのはいい」
振り返らない。
「でもな」
一拍。
「自分を捨てたら終わりだ」
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下衆田の視界が、
滲んだ。
げすげすと笑う余裕も、
もうない。
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遠くで、
観客のざわめきが戻る。
だが下衆田には、
何も聞こえなかった。
零の言葉。
教室の失笑。
投票用紙。
すべてが、
頭の中で重なる。
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(……わっちは)
(誰の為に走っていたでげすか)
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その問いに、
まだ答えはない。
だが。
初めて。
自分の足で立っている感覚だけが、
そこにあった。
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試合、決着




