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くれげの世界  作者: ぐろ
最終章“ 神域編”
151/205

第149話 流儀

照明が、揺れる。


ほんの一瞬。

売田の視界が白く滲んだ。


「……ちっ」


だが、もう焦りはない。


箱の位置。

重心。

橋の幅。


すべて、見えている。



反対側。


下衆田の指先は震えていた。


(なぜでげす……)


ローション。

照明。

重量調整。


ここまでやった。


完璧な妨害。


なのに。


(なぜ崩れないでげす……)


売田は、止まらない。



アームが降りる。


掴む。


揺らす。


箱が、回転しながら形を整える。


観客席がざわめいた。


「また回した……」

「転売回しだ」



下衆田の呼吸が荒くなる。


(違う……)


(こんなはずでは……)


零様は言った。


強さとは、

比較にならない差だと。


圧倒的な差でねじ伏せろと。


ならば。


なぜ。


この男は。


倒れない。



売田が、静かに言う。


「お前さ」


下衆田がびくりと震える。


「誰の為にやってんだ?」


言葉が、刺さる。



アームが降りる。


沈む。


持ち上がる。


箱が橋の外へ滑る。


ゴトン。


会場が揺れた。



静寂。



下衆田の口が、

開いたまま動かない。


負けた。


理解できない。


だが。


胸の奥で、

なにかが崩れていた。



売田は、景品を取り出しながら言った。


「強ぇやつに憧れるのはいい」


振り返らない。


「でもな」


一拍。


「自分を捨てたら終わりだ」



下衆田の視界が、

滲んだ。


げすげすと笑う余裕も、

もうない。



遠くで、

観客のざわめきが戻る。


だが下衆田には、

何も聞こえなかった。


零の言葉。

教室の失笑。

投票用紙。


すべてが、

頭の中で重なる。



(……わっちは)


(誰の為に走っていたでげすか)



その問いに、

まだ答えはない。


だが。


初めて。


自分の足で立っている感覚だけが、

そこにあった。



試合、決着

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