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くれげの世界  作者: ぐろ
最終章“ 神域編”
149/205

第147話 げすげすげす

実況がアナウンスする


第二試合


Cランク 売田転

Bランク 下衆田下僕(げすだしもべ)




「それでは――試合開始!」


下衆田下僕は、深く頭を下げた。


だがその目は、

まったく笑っていない。


「勝負とは最適化でげす。

 効率がすべてでげすよ」


売田は舌打ちした。


「うるせぇな……

 始めるぞ」


アームが動く。



売田の違和感


横移動。


指先が、滑った。


「……?」


もう一度押す。


ぬるり。


売田はボタンを見た。


うっすらと光る表面。


(……油?)


観客は気づかない。


だが売田は、

口元を歪めた。


「なるほどな」


隣で


下衆田の肩が小さく揺れる。


「げすげすげす」



奥行移動


掴む。


持ち上がらない。


箱が、重い。


明らかに。


「……おい」


売田が箱を睨む。


(同じサイズのはずだ)


下衆田が静かに言う。


「力不足では?

 Cランクさん」


観客席がざわつく。



売田、気を取り直して2手目


次の瞬間。


強烈なライトが、

売田の視界を焼いた。


「っ……!」


白く飛ぶ盤面。


焦点が合わない。


影の中で、

下衆田が笑う。


「環境適応力も

 実力のうちでげす」



観客も違和感に気付く


「……なんか変じゃない?」

「売田の精度が狂ってる」

「どうした?」


受験者席。


全が眉をひそめる。


「……おっさんらしくねぇ」


羽澄が小声で言う。


「環境、操作されてる……?」




売田は手を止めた。


ボタンを見る。

照明を見る。

箱を見る。


そして。


小さく笑った。


「へぇ」


「そこまでやるか」




「おい、ネズミ」


「誰がネズミでげす?」


「勝つためなら何でもありってか」


下衆田は胸を張る。


「当然でげす」


「弱者は環境に文句を言い、

 強者は環境を利用するでげす」


観客がざわつく。



売田は、静かに息を吐いた。


「……そうかよ」


そして指を拭う。


ズボンで。

強く。




照明が強い。


指が滑る。


箱が重い。


それでも。


横移動。

奥行。

角度。


アームが降りる。


掴む。


ずれる。


だが――


確実に動いている。



「……動いた」


観客が息を呑む。



(なぜでげす……?)


(条件は最悪のはず……)


下衆田の額に、

汗が滲む。




売田の目が細くなる。


照明の光量。

指の摩擦。

箱の重量。


すべてを織り込む。


「最適化ってのはな」


小さく呟く。


「現場でやるもんだ」



アーム下降。


角を押す。


箱が回る。


橋の外へ寄る。


「おおお……!」


観客席が揺れる。



「……」


下衆田の笑みが消えた。


(ありえないでげす)


(不利条件は完全でげす)


(なぜ崩れないでげす)



売田は淡々と続ける。


汗を拭いながら。

光を避けながら。

滑る指を叩きつけながら。


盤面だけを見ている。




「……やるな」


全が息を漏らす。


「おっさん、

 環境ごと攻略してやがる」




箱は橋の縁。


あと少し。


あと一押し。


観客が立ち上がる。


下衆田の指が震える。




(なぜでげす……)


(なぜ崩れない……)


(なぜ、諦めない……)



売田は静かに言った。


「心を折りてぇならよぉ」


「もっとエリート相手にしな」



アームが降りる――


瞬間。


下衆田の目が見開く

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