第147話 げすげすげす
実況がアナウンスする
第二試合
Cランク 売田転
対
Bランク 下衆田下僕
「それでは――試合開始!」
下衆田下僕は、深く頭を下げた。
だがその目は、
まったく笑っていない。
「勝負とは最適化でげす。
効率がすべてでげすよ」
売田は舌打ちした。
「うるせぇな……
始めるぞ」
アームが動く。
⸻
売田の違和感
横移動。
指先が、滑った。
「……?」
もう一度押す。
ぬるり。
売田はボタンを見た。
うっすらと光る表面。
(……油?)
観客は気づかない。
だが売田は、
口元を歪めた。
「なるほどな」
隣で
下衆田の肩が小さく揺れる。
「げすげすげす」
⸻
奥行移動
掴む。
持ち上がらない。
箱が、重い。
明らかに。
「……おい」
売田が箱を睨む。
(同じサイズのはずだ)
下衆田が静かに言う。
「力不足では?
Cランクさん」
観客席がざわつく。
⸻
売田、気を取り直して2手目
次の瞬間。
強烈なライトが、
売田の視界を焼いた。
「っ……!」
白く飛ぶ盤面。
焦点が合わない。
影の中で、
下衆田が笑う。
「環境適応力も
実力のうちでげす」
⸻
観客も違和感に気付く
「……なんか変じゃない?」
「売田の精度が狂ってる」
「どうした?」
受験者席。
全が眉をひそめる。
「……おっさんらしくねぇ」
羽澄が小声で言う。
「環境、操作されてる……?」
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売田は手を止めた。
ボタンを見る。
照明を見る。
箱を見る。
そして。
小さく笑った。
「へぇ」
「そこまでやるか」
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「おい、ネズミ」
「誰がネズミでげす?」
「勝つためなら何でもありってか」
下衆田は胸を張る。
「当然でげす」
「弱者は環境に文句を言い、
強者は環境を利用するでげす」
観客がざわつく。
⸻
売田は、静かに息を吐いた。
「……そうかよ」
そして指を拭う。
ズボンで。
強く。
⸻
照明が強い。
指が滑る。
箱が重い。
それでも。
横移動。
奥行。
角度。
アームが降りる。
掴む。
ずれる。
だが――
確実に動いている。
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「……動いた」
観客が息を呑む。
⸻
(なぜでげす……?)
(条件は最悪のはず……)
下衆田の額に、
汗が滲む。
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売田の目が細くなる。
照明の光量。
指の摩擦。
箱の重量。
すべてを織り込む。
「最適化ってのはな」
小さく呟く。
「現場でやるもんだ」
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アーム下降。
角を押す。
箱が回る。
橋の外へ寄る。
「おおお……!」
観客席が揺れる。
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「……」
下衆田の笑みが消えた。
(ありえないでげす)
(不利条件は完全でげす)
(なぜ崩れないでげす)
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売田は淡々と続ける。
汗を拭いながら。
光を避けながら。
滑る指を叩きつけながら。
盤面だけを見ている。
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「……やるな」
全が息を漏らす。
「おっさん、
環境ごと攻略してやがる」
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箱は橋の縁。
あと少し。
あと一押し。
観客が立ち上がる。
下衆田の指が震える。
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(なぜでげす……)
(なぜ崩れない……)
(なぜ、諦めない……)
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売田は静かに言った。
「心を折りてぇならよぉ」
「もっとエリート相手にしな」
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アームが降りる――
瞬間。
下衆田の目が見開く




