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くれげの世界  作者: ぐろ
最終章“ 神域編”
147/205

第145話 Dランク同士

一夜明け、試合開始前。



ランク入れ替え戦

第一試合。


Dランク

九條全 対 花形鈴。


誰もが軽く見ていたカードだった。


だが――

今、台の前に立つ花形の目は、静かに燃えていた。



彼女は三度、この場所に立っている。


第一回プロ試験。


緊張で手が震え、

思うように操作できなかった。


結果、不合格。


控室で泣く彼女に、

聞こえてきた声。


「花形がプロ?無理だろ」


笑い声。



第二回。


今度は練習を重ねた。

寝る間も削った。

バイト代はすべてプレイに消えた。


それでも――


あと一手。


届かず。


また、不合格。


帰り道、友人が言った。


「もうやめとけって」


「向いてないんだよ」


彼女は笑って頷いた。


家に帰ってから、

一晩中泣いた。



三度目の挑戦。


周りはもう、何も言わなかった。


期待も、嘲笑もない。


ただの無関心。


それでも花形は続けた。


なぜか。


理由は一つだった。


第一回プロライセンス試験

初めて見た人物。


才能がなくても、

這い上がった人。


九條全。


短気で、口が悪くて、敵も多い。


損な性格。


でも――


見捨てない。


相談に来た後輩を追い返さない。


不器用に、でも確かに向き合う。


三期生が悩むと、

自然と足が向く場所。


それが

九條先輩のところだった。



第3回試験。


合格発表。


自分の番号を見つけた瞬間、

花形は声を出せなかった。


震える手でスマホを握る。


最初に浮かんだ名前。


九條先輩。


だが――

電話はかけなかった。


直接言いたかったからだ。



そして今。


同じ舞台。


同じDランク。


憧れた背中と並んでいる。



「……来たな」


全が言う。


いつものぶっきらぼうな声。


花形は、小さく笑った。


「はい」


「先輩と当たるなんて、最悪です」


「は?なんだそりゃ」


「だって」


一瞬、言葉が詰まる。


「負けたくないじゃないですか」


九條の口元が、わずかに緩んだ。



試合が始まる。


花形の操作は派手ではない。


だが――

無駄がない。


積み重ねてきた時間が、そこにある。


九條の動きは荒い。


大胆で、直感的。


だが、その奥にある精度は本物だ。


観客席の誰かが呟く。


「……いい試合だ」



数手の攻防。


花形の手が止まる。


あと一手。


届く。


でも、足りない。


九條は理解していた。


ここで自分が決めれば終わる。


終わってしまう。


だが。


次の瞬間。


九條の視線が、花形を見る。


震えている。


悔しさじゃない。


恐怖でもない。


ここまで来た人生すべてが、

この一手に乗っている震え。


九條は、静かに息を吐いた。



アームが降りる。


掴む。


持ち上げる。


落下。


ゴトン。


決着。



静寂。


次の瞬間、拍手が広がる。


花形は、俯いたまま動かない。


涙が、床に落ちた。


一滴。


また一滴。



「……あぁ」


彼女は小さく笑った。


「よかった」


震える声。


「くじょうせんぱい」


顔を上げる。


涙でぐしゃぐしゃのまま。


「私が憧れた背中です」


九條は、目を逸らした。


「泣くな」


「……はい」


「胸を張れ」


「……はい!」



花形は深く頭を下げる。


悔しさは消えていない。


でも。


負けてなお、

胸の奥が満たされていた。



観客席、同期の三期生たちが泣いている。


「鈴ちゃん……!」


「かっこよかった……」


その姿を見て、

花形は初めて気づく。


自分もまた、

誰かの背中になっていたことに。



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