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くれげの世界  作者: ぐろ
第三章 プロライセンス編
141/205

第139話 目標


会場の熱が、

ゆっくりと落ち着いていく。


歓声のあとに残ったのは、

拍手と、

少しの照れと、

それぞれの「ありがとう」だった。



「……お前、受験生だったのか?」


売田が、

信じられないものを見るようにジョーを見た。


通訳が、言葉を繋ぐ。


ジョーは、

少し考えてから、深く頭を下げた。


「ありがとう。

 ……ミスター転売」


一瞬、間。


そして売田は、

腹の底から笑った。


「はっ!

 なんだそれ。

 まあいいや」


肩をすくめて、

ジョーの背中を軽く叩く。


「生き残れよ。

 それが一番だ」


ジョーは、

はっきりと頷いた。



「君との対戦でね」


梅田芭蕉が、

九條に声をかけた。


「自分に足りないものが、

 よくわかった。

 ありがとう」


「……は?」


九條は、

気まずそうに鼻を鳴らす。


「茶道家なら、

 黙って茶だけ点ててろよ」


芭蕉は、

楽しそうに笑った。


「今度、うちに来なさい。

 お茶、淹れよう」


「……考えとく」


そう言いながら、

九條の口元は、少しだけ緩んでいた。



「ねぇ葉子さん、葉子さん♡」


羽澄が、

スマホを構えて駆け寄る。


「写真、撮ろ!」


「え、えぇ……」


戸惑いながらも、

プリンセス葉子は隣に立つ。


「……あのマジック、

 自信作だったのだけど」


小さく息を吐く。


「あなたにだけは、

 見破られてしまったわね」


「私、

 弱いところを見せるの、

 ずっと隠して生きてきましたから♡

 ……だからかな?」


葉子は、

少しだけ遠くを見る。


「小さなマジックバーを始めるわ。

 出直しよ」


「じゃあ、

 コラボお願いしますね♡」


羽澄が即答する。


葉子は、

ふっと笑った。


「……楽しみにしてるわ」



「私には、

 持ち駒がたくさんあった」


龍宮寺 玉が、

静かに言った。


「だが、

 肝心な王の周りには、

 置かなかった」


「勉強になったよ。

 ありがとう」


雪平は、

一礼する。


「……いえ。

 私の方こそ、自惚れていました」


「また機会があれば、

 一局ご教授ください」


「ぜひ」


二人は、

将棋盤の前で向き合う棋士のように、

静かに頭を下げ合った。



「……気分はどうだ?」


晴谷が、

すきに声をかける。


「嬉しいです。

 でも……悔しい」


「自分が負けたからか?」


「いえ」


すきは、

首を振った。


「先生が見せてくれたこと。

 雪平さんに感じたこと」


「今の自分じゃ、

 届かないって、

 はっきりわかりました」


晴谷は、

少しだけ目を細める。


「それの正体、

 教えてやろうか?」


「……はい」


短く、強く。


「“ 目標”だ」


その言葉が、

すきの胸に落ちた瞬間。


一年間、

フリーターとして漂っていた時間。


目的のない毎日。

感動の無いゴトン。


それらが、

一つの形に噛み合う。


カチッ。


パズルのピースが、

音を立ててはまった。


「お前は、

 まだ強くなれる」


「……俺なんかよりな」


「先生の本気、

 初めて見ましたよ」


すきは、

笑った。


その笑顔は、

試合のときより、

ずっとまっすぐだった。

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