第137話 景気よくいこうぜ
「……勝てなかったけどさ」
控え席で、
九條がぽつりと呟いた。
「正直、あのおっさんすげぇな」
視線の先には、
まだ興奮の残る会場。
「姉ちゃんのバフもあるだろうけどさ」
雪平が、
首を傾げる。
「……え?」
「売田さんには、
バフは使ってないわよ?」
九條が、目を見開く。
「は?
俺以外に25%ずつだろ?」
雪平は、
少しだけ視線を落とす。
——あの時のことを、思い出していた。
⸻
控え室。
人の少ない廊下。
「おい、姉ちゃん」
売田が、
肩をすくめて声をかけた。
「20%ずつ、
均等に5人に分けろ」
「……わかったわ」
即答する雪平。
だが、
売田は続けた。
「ただな」
少しだけ、
視線を逸らす。
「……おれの分は、
初戦のバカ孫につけといてくれ」
「え?」
思わず声が漏れる。
売田は、
照れ隠しのように鼻で笑った。
「大事な初戦だ。
景気よくいこうぜ?」
その笑顔に、
雪平は一瞬だけ、言葉を失った。
そして——
「……わかったわ」
小さく、
でも確かに頷いた。
⸻
現実に戻る。
九條は、
しばらく黙っていたが、
やがて苦笑した。
「……マジかよ」
そのときだった。
売田の周りに、
自然と人が集まっていく。
「お疲れ様です」
「すごかったです」
「……かっこよかった」
それぞれの言葉。
それぞれの祝福。
売田は、
照れたように頭を掻くだけで、
何も言わない。
そして、
会場全体に声が響いた。
「——最終試験、
結果発表に入ります」
空気が、張りつめる。
「本試験には、
裏ルールが存在しました」
ざわめき。
「初期位置戻しを残した分、
勝利数に加算されます」
一瞬の沈黙。
「よって——」
結果が、
一人ずつ読み上げられていく。
そして、
売田の名前が呼ばれた。
「……初期位置戻し、
一回未使用」
会場が、
ざわりと揺れる。
「勝利数に一を加算。
最終結果——」
言葉が、
一拍、置かれた




