表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くれげの世界  作者: ぐろ
第三章 プロライセンス編
135/205

第133話 売田転

四年前。

クレーンゲーム大会。


昏華すき率いるチームに敗れたあとも、

売田転は変わらず

転売ズを率いていた。


トレーディングカード。

ゲーム機。

限定グッズ。

最新プライズフィギュア。


利益になりそうなものは、

全部回った。


朝は早い。

夜は長い。


夏は、

灼熱の店前で列に並ぶ。

冬は、

凍える指で整理券を握る。


転売ズは給料制だった。


活動人数、25名。


各自が商材を持ち帰り、

古くて大きな古民家——

転売ズのアジトに集める。


会計係が、

定価分の金額を手渡す。


それで一日の仕事は終わり。


月末。

商品をまとめて売る。


海外。

オークション。

店頭。

個人買取。


あらゆるルートを使って、

すべて捌ききる。


月の総売上、3000万。

経費を引いて、利益は1000万。


一人あたり、40万。


決して夢のある数字じゃない。

だが——

生きていける数字だった。


月末の夜。

アジトでは決まって飲み会が開かれた。


高い酒はない。

缶ビール。

缶チューハイ。

スーパーの半額惣菜。

安いスナック菓子。


それでも、

皆よく笑っていた。


売田は、

その光景を見るのが好きだった。


ある夜。

少し飲みすぎたメンバーが絡んできた。


「売田さんさ……

 あんたがリーダーなのは認めるよ」


「結果も出てるし、

 俺らの給料も増えた」


「でもさ……

 全員平等ってのは、

 正直、納得いかねぇ」


車を持っている者。

持っていない者。


夜中から場所取りする者。

昼間しか動けない者。


負担も、獲得数も、

差があるのは事実だった。


売田は、

黙って聞いていた。


そして、言った。


「当たり前だろ」


一瞬、空気が張り詰める。


「差が出ねぇ世界なんて、

 どこにもねぇ」


全員が、

売田を見る。


「でもな」


売田は、

一人一人の顔を

ゆっくりと見回した。


「俺らは、

 社会に馴染めなかった

 はぐれ者だ」


「上も下も作ったら、

 また同じことになる」


「だから、

 背中預けられるやつが

 一人でも多い方がいい」


「俺は、

 それに賭けてる」


少しの沈黙。


そして——


「……売田さん」


誰かが言った。


「俺、

 このチームでよかったです」


その夜、

アジトはいつもより

少しだけ長く騒がしかった。



飲み会のあと。

ほろ酔いで帰宅する売田。


家の前で、

母親が

何かを剥がしていた。


「お? お袋、どうした?」


「あぁ、転。おかえり」


「なんでもないよ、

 子供のイタズラ」


売田は、

笑った。


「まったく、

 しょうもねぇガキもいるもんだな」


リビング。

母親が夜食を作る。


売田は、

母の肩に違和感を覚えた。


「どうした?

 凝ってんのか?」


「もう歳だからね」


冗談めかした声。


「じゃあ、

 揉んでやるよ」


母の肩に手を置いた瞬間、

売田の動きが止まった。


——小さい。


こんなに、

小さかったか?


白髪こんなに増えて…


元気にPTA活動をしていた、

あの頃の母親。


父は一年前に他界していた。


「なぁ、お袋」


「俺、

 まぁまぁ稼いでるしさ」


「パート、やめろよ」


「お袋一人くらい、

 俺が養ってやる」


母は、

少しだけ笑った。


「ありがとうね」


「でも、

 まだ動けるから」


その夜。

部屋で休んでいると、

玄関から物音がした。


またイタズラかと、

駆け寄る。


誰もいない。


ドアに、

紙が貼られていた。


——死ね、転売ヤー。

——消えろ。

——社会のクズ。


胸の奥が、

冷えた。


あれは、

子供のイタズラじゃない。


母親は、

全部分かっていた。


ずっと。


売田は、

床に座り込んだ。


(……俺)


(まだ、

 親不孝してたんだな)


そのとき、

情報屋から連絡が入った。


クレーンゲーマー・プロライセンス。


年俸500万。


金額は、

正直どうでもよかった。


得意なことを使える。

堂々と名乗れる。

真っ当な職業。


売田は、

迷わなかった。


(受けよう)


(ちゃんと、

 胸張って帰ろう)


(で、お袋に言うんだ)


——これからは、

 親孝行させてくれ。



現在。


クレーンゲーム台の前。


売田は、

プライドを置いてきた。


勝つために。

繋ぐために。


一発の派手さより、

次に繋がる一手。


売田転は、

何かを売って生きてきた男だ。


だが今、

売っているのは——


未来だ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ