第129話 龍宮寺玉
龍宮寺 玉は、
幼い頃から一人で考える子供だった。
将棋を始めたのは、
祖父の影響だ。
最初は、
駒の動きが面白かった。
歩が進み、
香が走り、
飛車が空を裂く。
だが、
一つだけ不思議だった。
——どうして、
玉だけは逃げるんだろう?
攻めない。
前に出ない。
守られて、
囲われて、
最後まで盤上に残る。
それが、
勝ちだと教えられた。
龍宮寺は、
その考えを
素直に受け入れた。
自分は、
前に出る駒じゃない。
守るべき存在。
最後に立っている者。
才能は、
すぐに頭角を現した。
小学生で大会優勝。
中学生で全国。
高校では、
負けを知らなかった。
だが、
仲間はいなかった。
「玉は、
一人でいい」
そう言って、
チーム戦を避けた。
誰かに任せるくらいなら、
自分で全部読んだほうが早い。
歩も、
金も、
銀も。
すべて
“最適な位置”に
置いてやる。
それが、
自分の仕事だ。
やがて、
龍宮寺は気付く。
盤面が、
静止して見える瞬間がある。
先が、
分かる。
——ここから十手先。
——相手は、
この逃げ道しかない。
それが、
“ 境地”だった。
だが。
境地に至った瞬間、
龍宮寺は
さらに孤独になった。
対戦相手は、
早々に崩れる。
感情は、
読みのノイズになる。
勝利は、
当然になった。
いつしか、
誰も隣にいなくなった。
盤の前に座るのは、
いつも一人。
表彰台も、
一人。
控室も、
一人。
それでも、
龍宮寺は疑わなかった。
——これが、
正しい。
——玉とは、
そういう存在だ。
そして今。
クレーンゲームの盤面。
駒はない。
だが、
構造は同じだった。
初期位置は、
初期局面。
一手一手が、
駒の配置。
逃げ道を潰し、
最短で詰める。
盤面は、
自分の思考に
従う。
——完璧だ。
龍宮寺は、
そう確信していた。
ただ一つだけ、
知らなかったことがある。
玉は、
一人では
王になれない。




