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くれげの世界  作者: ぐろ
第三章 プロライセンス編
130/205

第128話 雪平杏

高校時代、

雪平杏は「主将」だった。


かもめ高校クレーンゲーム部。


実力は、

誰が見ても一番。


だから自然と、

前に立った。


台を選び、

攻め方を決め、

迷う仲間に声をかける。


——大丈夫。

——いけるよ。


その言葉で、

仲間は動いた。


勝った。


負けた。


どちらにせよ、

最後に名前を呼ばれるのは

雪平杏だった。


卒業間近、

大学のクレーンゲームサークルに誘われた。


「経験者、欲しいんだ」


迷いはなかった。


トレ高に負けたまま

終わるのは嫌だったし、

まだどこかで

自分はやれると思っていた。


大学のサークルメンバーは、

正直、上手くはなかった。


けれど。


みんな、

本気だった。


一手ずつ、

考え、

失敗して、

笑って。


——ああ、

 昔のかもめ高校だ。


そう思った。


だから、

雪平は気付かぬうちに

「役割」を引き受けていた。


境地の恩恵。


一日一度、

100%まで

潜在能力を引き出す力。


自分ではなく、

仲間に使った。


20%。

25%。

ときには、

全てを分け与えた。


勝てた。


一回戦。

二回戦。

三回戦。


準決勝。


すべて、

接戦を制して。


決勝。


相手チームを見た瞬間、

雪平は息を呑んだ。


柚木運命。

享楽伝。


——強い。


迷った。


ここで、

自分に使うか。


それとも、

仲間に配るか。


結果。


自分以外の四人に、

均等に力を振り分けた。


2対2。


大将戦。


雪平杏 対 柚木運命。


——負ける気はなかった。


境地の力がなくても、

自分なら勝てる。


そう、

信じていた。


結果は、

完敗だった。


試合後。


控え席へ戻る途中、

聞こえてきた声。


「あっちの副将と大将、

 1年生なんだって」


「え、すごいね」


「当たりじゃん」


——当たり。


その言葉が、

胸に刺さった。


(……じゃあ)


(私は?)


ここまで勝ち上がれたのは、

誰のおかげだった?


仲間に力を分けたから?

自分が前に立ったから?


それとも——

自分は、

ただの“補助輪”だった?


弱い考えだと、

分かっていた。


そんな風に考えてしまった自分が

無性に嫌になった。


先輩たちは

悪気なんてなかった。


それでも。


その日から、

雪平は

一つのことを

決めてしまった。


——私は、

 強くいなきゃいけない。


——支える側でいなきゃいけない。


——期待を、

 裏切っちゃいけない。


それが、

自分の価値だと

思い込んだ。


だから。


弱音は吐かない。

悩みも言わない。


いつも通りの

雪平杏を演じ続けた。


そんなある日。


たまたま会った、

賭良詠。


「プロライセンス?」


「年俸500万だって」


「受かったらさ、

 ケーキ奢ってよ」


軽い口調。


でも。


その言葉に、

救われた。


——まだ、

 期待してくれる人がいる。


——私は、

 まだ終わってない。


雪平杏は、

もう一度

前に進むことを決めた。


ただし。


このときの彼女は

まだ知らない。


自分が

誰かを支えていたのではなく、

誰かに支えられていた

ということを。


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