第122話 師弟対決
「……おい」
控え席に戻るなり、
売田が羽澄の前に立った。
「なんで初期位置戻し使わねぇ」
低い声。
怒っているというより、
納得していない顔だ。
「勝てたんだぞ?
もっと楽に」
羽澄京子は、
少しだけ首を傾げてから笑った。
「でも、
それじゃ面白くなかったでしょ?」
売田が言葉に詰まる。
「……チッ」
舌打ちして、
視線を逸らした。
「数字、落ちるぞ」
「大丈夫です♡
ああいうの、
あとから伸びるんで」
自信満々。
でも、どこか穏やかだった。
その様子を見ていた雪平杏が、
静かに声をかける。
「ありがとう」
羽澄が振り向く。
「あなたの勝ち方、
すごく綺麗だった」
「え?」
「相手も、
自分も、
ちゃんと残した」
羽澄は、
一瞬だけ照れたように笑った。
「……それ、
いちばん嬉しいです」
少し離れたところで、
すきがその様子を見ていた。
胸の奥が、
じんわり温かい。
(輝いてた……)
気づいたら、
声が出ていた。
「羽澄さん、
すごく輝いてました」
羽澄が、
くるっと振り返る。
「……あら?」
一歩近づいて、
にっと笑う。
「もう、
バズ子でいいわよ♡」
すきは、
一瞬きょとんとしてから、
小さく笑った。
「……はい、バズ子さん」
「よろしい♡」
その空気を、
場内アナウンスが切り替える。
「続いて、第三試合を開始します」
ざわめきが、
再び会場を満たす。
会長選抜側。
ゆっくりと歩み出る男。
晴谷蓮二。
落ち着いた表情。
どこか懐かしい気配。
すきも、
前に出た。
二人は、
台の前で向かい合う。
晴谷が、
小さく笑う。
「久しぶりだな」
「……はい」
「成長したか?」
すきは、
一瞬考えてから答えた。
「……わかりません」
晴谷は、
それを聞いて、
満足そうに頷いた。
「なら、
まだ伸びる」
第三試合。
それは、
勝敗を決める戦いではない。
——導くための試合。




