第119話 バズ子
中学の頃、
私のあだ名は――地味子だった。
いじめられてたわけじゃない。
無視されてたわけでもない。
ただ、
そこにいないみたいな扱い。
髪も、服も、カバンも、
全部「普通」。
家は裕福だったし、
私立の女子校に通っていた。
困ることは、正直なかった。
——ひとつだけ、
給食の時間を除けば。
机を寄せて、
グループで食べる時間。
私の周りだけ、
ぽっかりと空いていた。
誰も意地悪はしない。
誰も声もかけない。
だから私は、
教室を出て、
グラウンドの端のベンチで
一人で食べるようになった。
風が気持ちよかった。
でも、少しだけ、寒かった。
そんなある日。
叔母が家に遊びに来た。
派手な人だった。
ファッション関係の仕事をしていて、
いつも目立つ。
「京子、これ着てみなさい」
差し出されたのは、
今まで一度も着たことのない服。
明るい色。
フリル。
少しだけ露出のあるデザイン。
「無理だよ」
そう言ったけど、
叔母は笑った。
「だまされたと思って着なさい」
翌日。
その服を着て、学校へ行った。
教室の扉を開けた瞬間。
空気が、変わった。
「え、それどこの?」
「可愛い!」
「そのブランド、今手に入らなくない?」
人が、集まってきた。
——あ、そうなんだ。
服一つで、
こんなに変わるんだ。
単純だったのは、
私のほうだった。
家に帰って、
すぐ叔母に電話した。
「もっと、ちょうだい」
そこからは、
早かった。
服。
髪。
ネイル。
メイク。
少しずつ、
“気にされる自分”を作っていった。
高校に上がる頃には、
もう誰も私を
地味子とは呼ばなかった。
でもね。
強くなったわけじゃない。
ただ、
鎧を着ただけ。
似合う服。
整えた顔。
作った笑顔。
それ全部、
私を守るためのもの。
高校生になって、
人生で初めて合コンに行った。
女子校育ちの私には、
それだけで大事件。
そこで、
一人の男の子と話が合った。
連絡先を交換して、
聞かれた。
「SNS、やってる?」
……なにそれ?
その場で教えてもらって、
初めてアカウントを作った。
最初のフォロワーは、
その人一人。
画面を見て、
急に恥ずかしくなった。
——釣り合ってない。
必死に、フォロワーを増やした。
写真を撮って。
加工して。
投稿して。
数字が増えるたび、
安心した。
あ、
私はここにいていいんだ。
クレーンゲームを始めたのは、
その延長だった。
映える。
盛り上がる。
リアクションが返ってくる。
全部、
私を守ってくれる。
だから私は、
魅せる。
上手いかどうかより、
楽しいかどうか。
取れるかどうかより、
見たいかどうか。
それが、
私の戦い方。
——でも。
今日、
目の前にいる相手は違う。
布をかけて、
見えないまま取る。
観客を、
置いていく。
(……それ、
独りよがりじゃない?)
羽澄京子は、
ゆっくり息を吸った。
鎧は、
もう脱がない。
でも。
この鎧で、
誰かと一緒に戦うことは、
できる。
それを、
証明する。
第二試合は、
まだ終わっていない。




