第118話 インフルエンサーとマジシャン
第二試合の台は、
不自然なほど静かだった。
「第二試合、開始」
その合図と同時に、
会場の視線が一斉に集まる。
受験生チーム――
羽澄 京子。
「はーい♡」
明るい声。
軽やかな足取り。
カメラの位置を一瞬で把握し、
自然に一番“映える角度”へ立つ。
(……もう出来上がってる)
すきは思った。
一方。
会長選抜側に立つのは、
プリンセス葉子。
長い髪を揺らし、
余裕の笑みを浮かべる。
「……マジック、見せてあげるわ」
誰に言うでもなく、
そう呟いた。
葉子は、
クレーンゲーム台の前で、
白い布を取り出した。
「え?」
「布?」
会場がざわつく。
葉子は、
ためらいなくその布を
クレーンゲーム本体にふわりとかけた。
アームも、箱も、
すべてが隠れる。
「なにやってんだ?」
「見えないじゃん」
葉子は、
観客のざわめきを楽しむように、
ゆっくりと手を広げる。
「マジックの基本、知ってる?」
「予告しないこと。
繰り返さないこと。
タネ明かしをしないこと。」
そのまま、
ボタンに手を置いた。
——見えないまま。
「嘘だろ……」
アームが動く音だけが響く。
ガコン。
ギギ……。
布の向こうで、
何かが動いている。
数秒後。
布が、
すっと外された。
次の瞬間。
「え……?」
箱は、
初期位置から、ほぼ完成形に近い場所へ移動していた。
「なにそれ……」
「今、見てたやついる?」
誰も答えられない。
葉子は、
にこりと笑った。
「ミスディレクション。
視線を奪えば、
人は“見てるつもり”になる」
観客がどよめく。
その様子を、
羽澄京子は、黙って見ていた。
(……なるほど)
(これは、“取る”試合じゃない)
(“魅せる”試合だ)
羽澄は、
深呼吸してから、
一歩前に出る。
「じゃあ、次は私の番ですね?」
カメラに、
視線を向ける。
「みなさーん♡
クレーンゲームって、
下手な人が見ると、
魔法みたいに見えるんですよ」
そう言って、
ウインク。
コメントが一気に流れ出す。
《かわいい》
《映える》
《この人好き》
羽澄は、
箱を“あえて”少しだけズラした。
失敗に見える一手。
「あ、ミスった?」
そう言って、
小さく笑う。
——その瞬間。
次の一手で、
一気に形が進む。
「おおお!」
「今の分かりやすい!」
羽澄は、
箱だけじゃない。
感情を動かしている。
葉子は、
その様子を見て、
わずかに目を細めた。
(……観客を、
“仲間”にしてる)
第二試合は、
まだ始まったばかり。
だがもう、
二人の戦い方は、
はっきりと違っていた。
——これは、
“見せる者”と
“見破られる者”の試合。
そして、
その勝敗がひっくり返る瞬間は、
まだ、先だ




