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くれげの世界  作者: ぐろ
第三章 プロライセンス編
114/205

第112話 切り込み隊長

最初に名前を呼ばれたのは、九條全だった。


「第一試合、受験生チーム。

 九條 全」


一瞬、会場がざわつく。


会長の孫。

炎上。

ビックマウス。


九條は、深く息を吸ってから前に出た。


(……来た)


ガラス張りの会長席。

無意識に視線が向く。


そこに、会長がいた。


表情は読めない。

だが――確かに、目が合った。


胸の奥が、ぐっと締まる。


(見てろよ)


そう思ったのか、

そう思わされたのかは分からない。


九條自身も、今日は少し変だと感じていた。


身体が軽い。

視界が澄んでいる。


緊張はある。

心臓も速い。


でも――

悪くない。


(……今日、調子いいかもな)


理由は分からない。

ただ、そう感じた。


そのまま、対戦台の前に立つ。


「続いて、会長選抜」


司会の声が、空気を切る。


「梅田 芭蕉」


現れた男は、明らかに異質だった。


白を基調とした茶道の装い。

背筋が伸び、歩幅は一定。

足音すら、ほとんどしない。


会場が、静まる。


芭蕉は台の前で立ち止まり、

一度、深く呼吸を整えた。


指先が、わずかに揃う。


(……落ち着いてる)


九條は、無意識に歯を食いしばった。


(なんだよ、あの余裕)


芭蕉の所作には、無駄がなかった。

視線は台を見ているのに、

どこか“もっと奥”を見ている。


(こいつ……)


ただの強者じゃない。

そう直感する。


司会が、改めてルールを告げた。


「最終試験・特別ルールを説明します」


会場の視線が集まる。


「受験生チームは、

 会長選抜との五戦を通して――」


「合計三回まで、

 相手の台を初期位置に戻す権利を持ちます」


ざわめき。


九條は、眉をひそめた。


(初期位置戻し……)


説明は続く。


「使用のタイミングは自由。

 ただし、試合途中での宣言制とします」


「なお、

 この権利は共有です」


つまり――

使いどころを間違えれば、

後の試合が苦しくなる。


九條は、チームのほうを見た。


売田は、腕を組んでいる。

雪平は、静かだ。

羽澄は、どこか楽しそう。

すきは、こちらをまっすぐ見ている。


(……使う気ねぇけどな)


九條は、心の中で吐き捨てた。


勝てるかどうかより、

やりたくない勝ち方がある。


それだけだった。


芭蕉が、ちらりと九條を見る。


目が合う。


芭蕉は、何も言わない。

ただ、わずかに首を下げた。


礼でもなく、挑発でもない。


(……なんだ、今の)


九條の胸に、

言葉にできない違和感が残った。


司会の声が響く。


「それでは――」


「第一試合、開始!」


合図と同時に、

クレーンゲームのアームが動き出す。


九條は、ボタンに手を置いた。


(……行くぞ)


まだ、この時点では誰も知らない。


九條の中で、

いつもより強く燃えているものが、

“気合い”だけじゃないことを。


そして――

梅田芭蕉が、

この荒く、若く、真っ直ぐな少年から、

目を離せなくなり始めていることを。


第一試合は、

静かに動き出した。


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