第110話 チーム戦
チームが決まったことで、会場の空気は一段、重くなった。
五対五。
もう個人の試験じゃない。
すきは、並んだ五人を改めて見渡す。
売田転。
雪平杏。
羽澄京子。
九條全。
そして、自分。
(……情報量が多すぎる)
誰一人として、扱いやすい人間がいない。
それでも――不思議と不安より、現実味のほうが勝っていた。
「おーい相棒」
売田が、当然のようにすきの肩に腕を回した。
「こうして見るとさ、
なかなか悪くねぇチームだな」
「……近いんだけど」
「今さらだろ。
もう運命共同体だ」
肩に伝わる重み。
雑で遠慮のない距離感。
でも、その腕は
“逃がさない”というより、
“一緒に行くぞ”と言っているようだった。
「全員クセが強ぇ。
いい意味でな」
売田はそう言ってから、ふっと声を落とした。
視線の先――
会長選抜の五人。
晴谷蓮二。
梅田芭蕉。
プリンセス葉子。
龍宮寺玉。
そして、ジョー。
売田の表情が、僅かに硬くなる。
「……やべぇな」
「え?」
「相手、五人全員やばい」
冗談じゃない。
軽口でもない。
修羅場をくぐってきた男の、
直感そのものだった。
「とくに――」
売田の視線が、ジョーに止まる。
少年は、ただ立っているだけだ。
誰とも話さず、
誰の視線も受け止めていない。
それなのに。
すきは、ジョーを見た瞬間、
胸の奥がひやりと冷えるのを感じた。
(……なに、あれ)
強い、とも違う。
上手い、とも違う。
近づいたら、
なにかを壊される気がする。
「そんなに?」
雪平が静かに尋ねる。
「あぁ」
売田は、すきの肩に腕を回したまま答えた。
「強ぇとか、上手いとか、
そういう匂いじゃねぇ」
「じゃあ、どんな?」
羽澄が首をかしげる。
「……説明できねぇ」
売田は、低く息を吐いた。
「昔な。
市場が一気に崩れる前って、
必ず“嫌な匂い”がするんだ」
「数字も条件も揃ってるのに、
なぜか胸騒ぎがする」
「……あいつは、
その匂いがする」
すきは、無意識に拳を握っていた。
視線を逸らそうとして――
逸らせなかった。
そのすぐ隣。
晴谷蓮二と、目が合った気がした。
一瞬だけ。
ほんの一瞬。
高校時代のゲーセンの匂い。
夜の蛍光灯。
アームの軋む音。
胸の奥が、きしりと鳴る。
「まぁ」
売田が、わざと軽く言った。
「だからこそ、だ」
「?」
「合格は3勝でいい。」
「楽な試験には、ならなさそうですね」
雪平が小さく息を吐く。
「最初から、
楽するつもりはねぇよ」
九條が吐き捨てるように言った。
「強いなら、
叩き潰すだけだ」
「頼もしいねぇ」
羽澄が楽しそうに笑う。
その瞬間。
会場に、低いチャイム音が響いた。
「――これより、
最終試験・チーム戦を開始する」
すきは、売田の腕が肩にあるのを感じながら、前を向いた。
(……来た)
売田の言葉が、胸の奥で反響する。
――嫌な匂い。
その正体を、
これから嫌というほど思い知ることになる。




