第109話 殴っていいか?
「よし」
会場のざわめきの中、売田転は当然のように腕を組んだ。
「おい相棒。あと三人、どうする?」
「……え?」
すきは一瞬、言葉を失った。
(え、もうチーム確定なの?)
売田はすきを一瞥もせず、周囲を見回しながら続ける。
「金剛。
あいつは個人大会ベスト3だな。腕はある」
金剛良樹が少し離れた場所で腕を組んでいる。
「西条。
あいつはダメだ。信用できねぇ」
西条が気づいたのか、こちらを睨んできた。
「児玉は論外。
転売ズの天敵だしな」
(勝手に三人決めてる……)
すきがぽかんとしている間にも、売田の品定めは続く。
「ま、実力的にも――
あの姉ちゃんはいるだろ」
売田の視線の先には、雪平杏。
「……?」
雪平は一瞬驚いたように目を瞬かせ、それから穏やかに微笑んだ。
「私は、どなたでも歓迎しますよ」
「よし、決まりだな」
いや、決まりじゃない。
すきは心の中でツッコミを入れる。
そのとき。
「え〜、それならぁ〜」
軽やかな声が割って入った。
「一緒に“映え”ませんかぁ?」
羽澄京子が、にこやかに手を振りながら近づいてくる。
「配信的にも、絶対いいと思うんですよね〜」
「あぁ……バズ子か」
売田は少し考えてから、肩をすくめた。
「まぁ、腕は確かだ。
悪くねぇ」
「やった♡」
羽澄が嬉しそうにウインクする。
(……あれ?
もう四人?)
すきが周囲を見渡した、そのときだった。
会場の端。
ぽつんと立つ一人の少年。
九條全。
誰とも組めず、誰の視線も向いていない。
「あ……」
すきは小さく声を漏らした。
「ねぇ、売田さん。
九條くん、誘おうよ」
「は?」
売田が即座に眉をひそめる。
「あんな会長のバカ孫、
入れる余裕あるわけねぇだろ」
「私は、問題ありません」
雪平が静かに言った。
「誰であっても、同じチームですから」
「それに〜」
羽澄が楽しそうに口を挟む。
「あの子、結構ルックスいいですよ?
女性層にウケます!」
「……」
売田は深いため息をついた。
「……はぁ。
しょうがねぇ」
そう言って、九條のほうへ歩き出す。
少し離れた位置で、二人は言葉を交わし始めた。
だが――
雰囲気は、明らかに険悪だ。
九條が声を荒げ、
売田が腕を掴みかけ、
周囲がざわつく。
数秒後。
「……クソが」
売田が一人で戻ってきた。
「なぁ、あのガキぶん殴っていいか?」
(まぁ……気持ちはわかる)
すきは思わず苦笑する。
「あの子がいいんだよね?」
雪平が確認するように言った。
すきは一瞬だけ迷ってから、頷いた。
「うん」
「了解」
雪平が静かに歩き出す。
九條と向き合い、短い会話を交わす。
表情は見えないが、争ってはいない。
やがて。
九條が、こちらへ歩いてきた。
「……しょうがない」
ぶっきらぼうに言う。
「入ってやる」
そして、売田を睨む。
「足、引っ張るなよ。
とくに転売のおっさん」
「……」
売田のこめかみに、血管が浮き出た。
(こいつマジか……)
すきは内心で呟く。
「わお、ビックマウス♡」
羽澄は楽しそうに笑い、
「やれやれ」
雪平は小さく肩をすくめた。
こうして。
即席で、
だがどこか歪な五人組が、
最終試験の舞台に立つことになった。




