第107話 面接
面接室は、
驚くほど質素だった。
机。
椅子。
それだけ。
正面に座る男は、
眼鏡の奥からじっとこちらを見る。
「副会長、知見 優です」
声は低く、感情がない。
「これから行う四次試験――面接の合格基準は」
一拍。
「私の、独断と偏見です」
誰かが、息を呑む。
「安心してください」
知見は淡々と言った。
「プロに必要なのは、
正解ではありません」
「理由です」
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「なお」
「20名の中から、
最終試験に進める人数は――」
少しだけ、間を置く。
「未定です」
会場の空気が、
ぴんと張りつめた。
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羽澄京子
椅子に座ると同時に、
羽澄は自然に笑った。
「なぜ、プロになりたい?」
「映えるから、です」
即答。
知見の眉が、
わずかに動く。
「プロで、何をしたい?」
「自分が表紙の雑誌を作りたいです」
「あなたにとって、クレーンゲームとは?」
羽澄は、少し考えてから言った。
「……武器の一つ、ですかね」
嘘はない。
飾りもない。
知見は、
何も書き込まず、次を呼んだ。
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九條 全
椅子に座る姿勢が、
やや硬い。
「なぜ、プロになりたい?」
「……認めさせたい人がいます」
知見は、視線を上げる。
「プロで、何をしたい?」
「大会で勝って、
有名になりたいです」
「あなたにとって、クレーンゲームとは?」
九條は、
一瞬、言葉に詰まってから吐き出した。
「……呪縛。」
知見は、
ペンを止めた。
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売田 転
椅子に座るなり、
足を組む。
「なぜ、プロになりたい?」
「年棒500万。
プレイ料金半額」
「条件が揃いすぎてる」
知見は、眼鏡を押し上げる。
「……やらない奴は、
転売に向いてない」
「転売するつもりですか?」
「しないさ」
売田は、笑って肩をすくめた。
「まぁでも」
「億とか言われたら……なぁ?」
「わかるだろ?」
へへ、と軽く笑う。
知見は、
その笑いを、じっと見ていた。
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雪平 杏
背筋が、
自然と伸びている。
「なぜ、プロになりたい?」
「個として、
自分に自信を持つためです」
「プロになって、何がしたい?」
「まずは」
雪平は、
少しだけ口元を緩めた。
「きっかけをくれた
変わり者の後輩に、
ケーキでもご馳走します」
「あなたにとって、クレーンゲームとは?」
「……自分と、向き合える場所です」
知見は、
静かにペンを走らせた。
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昏華すき
椅子に座った瞬間、
すきは一度だけ深呼吸した。
「なぜ、プロになりたい?」
「……堕落した自分を、
変えたいです」
知見は、
遮らない。
「プロになって、何がしたい?」
「……もっとクレーンゲームが知りたい」
一瞬、
室内の空気が揺れた。
「あなたにとって、クレーンゲームとは?」
すきは、
答えかけて――
止まった。
少しだけ、
視線を伏せる。
「……その答えは」
顔を上げる。
「最終試験の後に、
答えさせてください」
沈黙。
知見は、
すきを見つめたまま、
数秒動かなかった。
やがて。
「……結構です」
それだけ言って、
次の書類に手を伸ばした。
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面接は、
淡々と進んでいく。
誰が正しくて、
誰が間違っているのか。
そんなものは、
どこにも書かれていない。
ただ一つ。
それぞれが、
違う理由で、
同じ場所を目指している。
その事実だけが、
静かに積み上がっていった。
最終試験に進めるのは、
誰なのか。
それを決めるのは――
独断と、偏見




