第105話 切り札
配信画面の向こう側。
流れているのは、
数字と、文字と、軽い反応。
すきは、
カメラを見た。
(……笑えばいいのか)
口角を、少し上げる。
沙希の笑顔。
作り慣れた、あの感じ。
「えっと……今日は、
よろしくお願いします」
《かわいい》
《普通だな》
反応は、悪くない。
でも、伸びない。
(……じゃあ)
今度は、
頭の中で言葉を組み立てる。
凛の声。
理屈。
説明。
「この台は、
アームの戻りで――」
《長い》
《解説多くね?》
数字が、
止まる。
(……違う)
(どれも、私じゃない)
⸻
すきは、
一瞬、迷ってから――
“ 切り札”を切った。
(……豚田)
リズム。
テンポ。
「萌えたん、いっきまぁ〜す!」
体を揺らしながら、
ボタンを叩く。
《なにこれ》
《ドン引き》
《オタ芸で草》
画面の温度が、
一気に下がる。
(……あ)
(これも、違う)
すきは、
動きを止めた。
⸻
深く、息を吸う。
(……私)
(なにを、やってるんだろ)
ゆっくり、
目を閉じた。
⸻
音が、遠のく。
配信も、
チャットも、
全部、消える。
久しぶりに――
扉の中に入った。
広がる、宇宙。
重さ。
流れ。
次に起きること。
かつて、
辿り着いた場所。
ドクン
(……ここだ)
⸻
目を閉じたまま、
横を入れる。
奥行。
下降。
箱が、
斜めにハマる。
(……次)
斜めのまま、
アームをズリ上げる。
そのまま――
ゴトン。
獲得。
⸻
《え》
《今のなに》
《普通に上手い》
反応が、
遅れて追いつく。
でも。
《さっきの転売ヤーもノールックだったしな》
《すごいけど地味》
《まぁ上手い》
グッドボタンは、
少しだけ増えた。
(……押しては、くれたんだ)
でも、
爆発はしない。
⸻
すきは、
画面の数字を見る。
(……難しい)
取れる。
でも、
“掴めていない”。
(これが、三次試験)
クレーンゲームの腕じゃない。
自分自身を、どう見せるか。
⸻
時間だけが、
静かに流れる。
無理に、何かはしない。
ただ、
自分のやり方で、取る。
そして――
《三次試験、終了です》
アナウンスが、
会場に響いた。
すきは、
目を開ける。
画面の向こうに、
何人の心が残ったのか。
それは、
まだ分からない。
ただ一つ。
(……私は)
(まだ、進みたい)
その気持ちだけは、
確かだった




