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くれげの世界  作者: ぐろ
第三章 プロライセンス編
106/205

第104話 生配信


配信は、

容赦なく流れていく。


数字と、文字と、

感情だけが、可視化された世界。



売田転


「おっ」


売田は、

流れるコメントを一つ拾った。


《おっさんグッドボタン押してほしい?ww》


一瞬、間があって――

売田は、カメラにメンチを切った。


「……あ?」


《うわなにこいつw》

《態度悪》

《特定班よろしく》


コメントが、加速する。


《はい特定》

《売田転 40歳 転売ヤー》


「……は?」


売田の目が、見開かれる。


《転売ヤーとか社会のクズで草》

《プロライセンスも転売しそう》


売田は、

一度だけ、深く息を吐いた。


(……クソが)


怒りを抑えながら、

クレーンゲーム台に向き直る。


――が。


なぜか、

台を見ていない。


視線は、

ずっとカメラ。


《こいつカメラ目線ww》

《ノールック操作草》


アームが下りる。


掴む。


持ち上がる。


――ワンパン。


ゴトン。


《え》

《は?》

《今のノールック?》


売田自身が、

一瞬だけ固まる。


それから、

景品を手に取って――

ドヤ顔でカメラに近づけた。


「……み、みなさん?」


「ほら、取れましたよぉ?へへ」


《こいつ面白くなってきた》

《覚醒してて草》


数字が、

一気に跳ねる。



九條全


「え、えっと……」


九條は、

ぎこちなく口を開いた。


「この台は……

 橋渡しと呼ばれる台で……」


《知ってるよ》

《見てやってるから早く取れ》

《はじめてのおつかいか?》


九條のこめかみが、

ぴくりと跳ねる。


(……うるせぇ)


操作が、

わずかに荒れる。


アームが、

狙いを外し――

箱に当たるだけで終わった。


《下手でワロタ》

《おれのが上手いよ教えよか?》

《これが三次試験てマ!?》


九條の手が、

止まった。


次の瞬間。


「――いいか、ど素人共!」


声が、

配信に響いた。


「クレーンゲームってのはな!」


「失敗の積み重ねなんだよ!」


「動画で綺麗に取ってるとこだけ見て!」


「自分が上手くなった気になってんじゃねぇ!!」


《やばこいつ》

《発狂してて草》

《同志よBADボタン求む》


画面が、

赤く染まる。


BAD。

BAD。

BAD。


数字が、

逆方向に跳ねた。


九條は、

歯を食いしばる。


(……くそ)



雪平杏


「みなさん、こんにちは」


穏やかな笑顔。


「お手柔らかに、お願いします」


《美人》

《声落ち着く》


雪平は、

初期位置に置かれた景品を映す。


「皆さんなら、

 最初どこを狙いますか?」


《上の角を右寄せ》

《いやバランスキャッチだろ》

《一旦箱立てよう》


雪平は、

チャットを見て、頷いた。


「わかりました」


「では、

 バランスキャッチが多いので

 トライしてみます」


操作。


一手。


――成功。


箱が、

橋にハマる。


《上手っ!》

《この人いいな》

《美人だし強い》


「では次は、

 どこを狙いますか?」


雪平は、

視聴者と一緒に考える。


成功も、失敗も、

共有する。


数字が、

じわじわと増えていく。



すきは、

その全てを見ていた。


怒りで掴む人。

反発で壊れる人。

一緒に取る人。


(……見せ方、か)


(……クレーンゲームって)


(……一人でやるものじゃないのかも)


すきは、

自分の配信画面に戻る。


チャット欄は、

まだ静か。


でも。


(……私も)


(……やってみよう)


誰かと、

一緒に取る感覚。


それを、

もう一度。


すきの指が、

ボタンに触れたところで――


配信は、続く。

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