第101話 ドックン
盤面は、静かだった。
横移動。
奥行。
下降。
三つの動作が、
一つの流れになる。
すきが横を作る。
九條が、待つ。
九條が奥を寄せる。
すきは、触らない。
譲るでも、従うでもない。
同じ盤面を見て、
同じ結論に辿り着くだけ。
ドックン
アームが下りる。
噛む。
沈む。
落下。
ゴトン。
⸻
二台目。
すきは、横を入れない。
九條が、奥を入れない。
互いに、
“やらない選択”をする。
(……待ち)
(……今じゃない)
同時に、
一歩下がる。
周囲の受験者が、
不思議そうに見る。
だが――
次の瞬間。
すきが横を一ミリ。
九條が奥を一段。
アームが下りる。
掴む。
落下。
ゴトン。
⸻
視線が、変わる。
「……今の、
どっちが指示した?」
誰かが、呟いた。
答えは、ない。
⸻
少し離れた場所。
雪平杏と、金剛良樹。
二人は、
ほとんど動かない。
必要な時だけ、
同時に動く。
失敗しない。
やり直さない。
完成度が高い。
(……さすが)
すきは、
一瞬だけ視線を向けて、
すぐ盤面に戻す。
⸻
さらに向こう。
羽澄京子のペア。
派手さは抑えられている。
だが、
“見せる”判断が、
ちゃんと残っている。
人が集まる台を、
避けていない。
(……役割、分かってる)
⸻
一方で。
操作が噛み合わないペアが、
一つ、また一つ。
横が走る。
奥が遅れる。
下降。
――空振り。
苛立ち。
視線の衝突。
修正が、できない。
言葉が、使えない。
崩れる時は、一瞬だった。
⸻
「……残り、五分」
威信電子の声が、
会場に響く。
感情はない。
だが、
目だけが、
すきと九條を追っていた。
⸻
最後の台。
箱は、
微妙な位置。
一手で行くか。
二手で整えるか。
すきは、
横に触れない。
九條が、
奥を触れない。
一拍。
同時に、動く。
横。
奥。
下降。
噛む。
沈む。
落下。
ゴトン。
⸻
ブザー。
《二次試験、終了》
音が、
やけに近く聞こえた。
⸻
すきは、
深く息を吐いた。
九條は、
拳を握ったまま、
前を見ている。
(……殴るのは)
(……あとでいい)
そう思って、
すきは口角を、
ほんの少しだけ上げた。
⸻
威信電子が、
記録端末を閉じる。
視線が、
二人に向く。
「……以上です」
それだけ。
だが――
それで十分だった。
⸻
二次試験は、
“上手いかどうか”を
測る試験じゃない。
同じ盤面を、
同じ答えで見られるか。
それを、
確かめる試験だった。
すきは、
次を見据える。
九條は、
初めて、隣を見た。
短い、
目線。
言葉は、
まだ要らない。
二人三脚は、
転ばずに、走り切った。




