第98話 裏ルール
一次試験会場に、
再び受験者たちが集められた。
さっきまで鳴っていたクレーンの音は、
もうどこにもない。
代わりにあるのは、
妙に乾いた静けさだった。
⸻
《一次試験の結果を発表します》
司会の声が、会場に響く。
裏ルールの開示
《本試験は、獲得した景品数ではなく、
ポイント制で評価されます》
スクリーンが切り替わる。
そこに映し出されたのは、
簡潔な一覧だった。
•橋渡し景品:1ポイント
•ペラ輪景品:5ポイント
•巨大ぬいぐるみ:10ポイント
•高難易度・長箱・確率機後半個体:10ポイント
会場が、ざわつく。
「え……」
「数じゃないのかよ……」
誰かが、呟いた。
⸻
《評価基準は、
プロとして“何を選んだか”です》
司会は、淡々と続ける。
《簡単に取れる景品を
いくら積み上げても、
評価は伸びません》
《難易度と、
それに見合った判断を、
重視します》
ざわめきが、
一段、重くなる。
⸻
すきは、
スクリーンを見つめていた。
(……なるほど)
数を取った。
でも、
全部が高得点じゃない。
売田が、隣で小さく笑う。
「想定内だ。」
「乱獲は、
“前提条件”だ」
⸻
《それでは》
《一次試験通過者を発表します》
《通過基準は――
ポイント上位50%》
数字が、スクリーンに流れ始める。
名前。
ポイント。
順位。
歓声は、ない。
あるのは、
息を呑む音だけだ。
⸻
「……あ」
すきの視界に、
ある名前が映った。
九條全 / 10ポイント
ギリギリの位置。
周囲から、
小さな失笑が漏れる。
「え、10?」
「巨大ぬいぐるみ一個だけかよ」
「効率悪すぎだろ」
九條は、
唇を噛みしめている。
拳が、震えていた。
それでも――
名前の横には、
“通過”の文字。
⸻
「……通ったな」
売田が、低く言う。
「奇跡みたいなもんだ」
すきは、
九條を見る。
あの時。
最後の百円。
初めて取れた景品。
(……10ポイント)
それは、
高得点だった。
効率は最悪。
判断も甘い。
でも――
取るべきものを取った。
⸻
スクリーンが、
さらに切り替わる。
上位者一覧。
雪平杏。
高ポイントが、並んでいる。
派手さはない。
でも、無駄がない。
羽澄京子も、
しっかりと通過していた。
数と話題性、
どちらも成立させている。
(……強い)
すきは、
素直にそう思った。
⸻
自分の名前も、
そこにあった。
ポイントは、
高すぎず、低すぎず。
でも、
すべてに理由がある数字。
売田が、頷く。
「悪くねぇ」
「一次は、
ちゃんと“プロ向き”だ」
⸻
《一次試験通過者は、
次の二次試験へ進んでください》
会場の空気が、
さらに引き締まる。
⸻
九條は、
通過の表示を見つめたまま、
動かなかった。
喜んでいいのか、
分からない表情。
すきは、
その横顔を見て、思う。
(……ここからだ)
一次試験は、
選んだ理由を突きつける試験だった。
でも、
次は違う。
――選び続けられるかどうか。
それが、
試される。
すきは、
静かに息を吸った。
二次試験が、
もう始まっている気がした。




