表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

舌先の棘

右の奥歯のすぐ横、あやまって噛んでしまった頬の内側の肉が、熱を持って腫れている。舌先で触れると、そこだけ他人の肉体のようにぶよぶよとしていて、生温かい。

「聞いてる?」

正面に座る男の声が、水の底から響いてくるように鈍く聞こえた。私は慌てて頷こうとして、また同じ場所を噛む。じゅわり、と鉄の味が広がった。

「聞いてるよ」

嘘だ。意識は全て、口の中の小さな破綻に向いている。

彼が並べる言葉は、どれも正しくて、綺麗で、だからこそ私の粘膜を逆撫でする。彼は知らないのだ。私が今、口の中に小さな血溜まりを隠し持っていることを。彼に愛を囁くはずのこの場所が、今はただの傷ついた空洞でしかないことを。

熱いスープを口に運ぶたび、鋭い痛みが走る。その痛みに安堵している自分がいた。この傷が痛むうちは、喋らなくていい。この傷が癒えないうちは、彼に本当のことなんて言わなくていい。

「君って時々、何を考えてるかわからない顔をするね」

彼は困ったように眉を下げる。私は口内の傷を舌で強く押し潰しながら、曖昧に微笑んだ。鮮血の味が喉の奥へと落ちていく。飲み込んだのは血なのか、それとも腐りかけた別れの言葉なのか、私自身にも判別がつかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ