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第九話. サニーの過去

 夕方のリビング。

 NewTubeに接続された大画面のテレビに、可愛らしいバーチャル妖精のアバターが映し出されていた。

 大きな瞳に金色の髪、羽根をひらひらさせながら、画面いっぱいに愛嬌を振りまいている。

挿絵(By みてみん)

「みんなーっ! 今日からVTuberデビューした夢見ゆめみサニーだよっ☆ チャンネル登録とイイネ、ぜったいよろしくね! 可愛い妖精が見られるのはここだけだからね!」


 コメント欄が次々に流れる。


《かわいい!》

《本当に妖精みたいだ》

《声が癒される》


 サニーは最新スマホのカメラを使い、自在にアバターを動かしていた。

 勇馬に買ってもらったフラグシップモデルの処理性能でアバターの動きはヌルヌルだ。


「やっぱり最新スペックは最強だよ!」


 満面の笑顔とともに、サニーは黄色いスマホを誇らしげに掲げる。

 その横で勇馬は、財布を取り出して中を覗き込み、ため息をついた。


「……廉価版にしろって言ったのに。そのスマホ、高かったんだからな……」


 しかしサニーは配信に夢中で、聞こえていないのか、聞く気がないのか、ひらひらと手を振りながら視聴者に向かってさらにアピールを続けていた。


 そこへ、学校から帰宅した明美がリビングに駆け込んできた。


「お兄ちゃん大ニュース! あの“名探偵サニー”がVTuberデビューしてるんだよ!」


「……ああ、それならここでもやってるぞ」


 勇馬は淡々とリビングのテーブルを指さした。

 明美が目を向けると――そこには、サニーが、楽しげにスマホを操作しながら配信を続けているではないか。


「えっ……!? なにこれ……ほんとに妖精!?」


 明美の目が大きく見開かれる。

 同時にサニーもこちらを振り返り、仰天した。


「ちょ、ちょっと! なんで見えてるの!? ヴェール使ってたはずなのに!」


 勇馬は小さく息を吐いて肩をすくめた。


「紹介するよ。こいつがサニー。妖精で……今の俺の相棒だ」


「サ、サニー……!? え、えええっ!」


 明美の顔が一気に紅潮する。


「本物……! 推しが……家にいるなんて……!」


 明美は震える手でサニーを見つめ、テンションが爆発した。


「メッチャ可愛い! サインほしい! 一緒に写真撮ってもいい!?」


「ふっふー、にじみ出ちゃってるかなー、この人気者のオーラが!」


 サニーは宙返りしてポーズを決め、黄色いスマホを掲げて笑った。

 明美とサニーはすぐに打ち解け、ひとしきり盛り上がった。


 ようやく落ち着きを取り戻した二人を見て、勇馬は改まった声でサニーに向き直った。


「……サニー。ひとつ聞きたいことがある」


「なに?」


「俺が勇者の姿になったときのこと。そして――あの剣、ライトブリンガーのことだ」


 サニーは一瞬目を伏せ、羽をゆっくり揺らした。


 ――遠い記憶がよみがえる。


 剣と魔法の世界。

 仲間と共に旅をした日々。


 最終決戦の場、魔王の城。

 勇者と魔王の激闘は凄惨を極め、ついに両者は相打ちとなった。


 瓦礫の中に横たわる勇者の胸は血に染まり、呼吸は浅い。

 サニーは泣きじゃくりながら彼のそばに寄り添っていた。


「ゆ、勇者さま……! だめ、死んじゃいや!」


 勇者は微笑み、手にした剣をかろうじて差し出した。

 黄金に輝く伝説の剣――ライトブリンガー。


「サニー……お前に託す。アイテムボックスに……この剣を……」


「そ、そんな! 私なんかに……!」


「頼めるのは……お前だけだ。未来の誰かが、この剣を必要とする……その時まで……守ってくれ」


 勇者の手が、サニーの小さな手を包み、光を託すように握った。

 涙に濡れながら、サニーは必死に頷いた。


「わ、わかった……絶対に守る……!」


 次の瞬間、勇者の体から力が抜け、剣はサニーのアイテムボックスへと吸い込まれていった。

 その日からサニーは、剣の番人となったのだ。


「……私はね、戦う力なんてなかったけど、勇者パーティの一員だったの。

 最後の戦いで勇者さまが魔王と相打ちになったとき、瀕死の状態でこの剣を私に託したの。

 だから私は、ずっとずっと、アイテムボックスの中で守り続けてきたんだ」


「……なるほどな」


 勇馬はサニーのキャラの違いには敢えて突っ込まず。ひとまず納得した。


「あとね、この世界では、私のスキルを全部は使いこなせないの。

 スキルはこの世界の概念だと魔法みたいなものね。小さなもの――《インビジブルヴェール》みたいな隠蔽術なら自分の力で発動できるけど、もっと大きな力を扱うには“媒介”が必要になるの」


 サニーは黄色の新しいスマホを掲げる。

 彼女は続ける。


「特に《レベルブースト》は、とてつもない力を消費するから、これの助けがなければ絶対に発動できないの」


「なるほどな……」


 勇馬は顎に手を当て、剣を思い出すように目を細めた。


「ライトブリンガーは最強の武器。

 レベルの低い勇馬でも雑魚ぐらいなら簡単に倒せるけど、適正レベルにならないと本来の力を使うことができないの」


「レベルが低い…って何か引っかかるけど…

 でも俺が勇者の力を使えたのは――サニーがスマホを犠牲にしてくれたおかげで剣の力を引き出せたからなんだな」


 サニーはにんまり笑い、黄色いスマホを抱きしめた。


「そういうこと! 前のスマホの情報は消えちゃったけど、でもまたこれで“イイネ”をいっぱい貰っちゃうよ!

 この快感こそ、私にとって最高の魔力なんだよ! やっぱりバズらなきゃ意味ないでしょ?」


 明美は目をぱちぱちさせたあと、ふっと笑ってうなずいた。


「……サニーちゃんらしい。だから推せるんだよね」


 明美がテレビに目を向けるとNewTubeのお勧めが「廃墟探検チャンネル」を表示していた。

 「ハッ」とした明美はテーブルに手をつき、真剣な表情を見せた。


「サニーちゃん……お願いしたいことがあるの」


 勇馬とサニーが同時に目を向ける。


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