第八話. 交差する視線
――神崎 瞳、と名乗った女は、月明かりの下でライフルを肩に担ぎながら勇馬を射抜くように見つめていた。
鋭い視線に、勇馬は思わず息を呑む。隣でサニーは小声で「こわ……」と呟いた。
「ここじゃ話せないわ。……場所を移しましょう」
瞳は感情を抑えた声音でそう告げた。
向かったのは、戦場から少し離れた街道沿いのファミレスだった。
夜も遅い時間だが、店内は落ち着いていて、人目を気にせず話せる。
席につくと、瞳はすぐに核心を突く。
「――あの黒い巨人。あれは“組織”が召喚した魔物よ。召喚した魔物は、兵器として売買することを目的に動いている。巨人はその実験の一環で、街を標的にして実力を試そうとしていたの」
勇馬はごくりと喉を鳴らす。まさか、そんな恐ろしい陰謀が裏で進んでいたとは。
だが瞳の視線はすぐにサニーへと向かう。
「……それで。そっちの“小さい存在”は何?」
サニーは「小さい存在!?」と頬を膨らませるが、勇馬が手で制した。
「話すよ。全部……」
勇馬は、これまでの経緯を語った。
サニーとの出会い、スマホを奪われたこと、彼女の助けを借りて戦ってきたこと。
そして、両親が黒衣の男に襲撃され、殺害されたことまで。
語る声は次第に震え、拳は膝の上で白く握り締められていた。
瞳はじっと黙って聞き、やがて静かに息を吐いた。
「……そう。つまり君はすでに巻き込まれている。なら、なおさら放ってはおけないわ」
「ふん、そうよ! 勇馬はただの人間じゃないんだから! 私が勇者にしてあげたんだから!」
サニーが胸を張ると、瞳は冷ややかに返す。
「なるほど……。妖精と共に戦う人間。普通なら信じられない話だけど……目の前で巨人を切り伏せた君を見て、疑う余地はないわね」
勇馬は口を結び、瞳の言葉を待った。
そして――。
「目的は同じ。私と手を組みましょう。……それが一番効率的だと思うわ」
勇馬はわずかに息を呑む。
政府の人間と共闘できるなら心強いはず。だが、どこか簡単には信用しきれない自分もいる。
「……わかった。組もう。ただし、俺はまだあんたを完全には信用してない」
瞳は小さく頷いた。
「賢明ね。信頼はこれから築けばいいわ」
「それと――スマホ。君の妖精が魔法に使うんでしょう? 新しいのを買う必要があるわ。よければ私が手配してあげる」
「えっ!? 本当!? 最新機種!? 最強スペック!?」
サニーが目を輝かせるが、勇馬は首を振った。
「いや、そこは俺が自分で買うよ。……正直、まだ神崎さんのことを全部信用してるわけじゃないしな」
一瞬、空気が張り詰めたが、瞳は苦笑を浮かべた。
「ふふ……慎重ね。でもそれでいいわ」
サニーは「えーっ!」と大げさに肩を落とした。
ファミレスを出る頃には夜が更けていた。
店の外で、瞳が月明かりに照らされながら言った。
「組織は必ず次の手を打ってくるわ。その前に、こちらも備えておきましょう」
勇馬はその横顔を見つめ、心の奥で決意を固めた。
サニーはといえば、すでに「スマホはどの色にしようかなぁ」とぶつぶつ呟いていた。




