第四話. 滴る物
赤い屋根の家の庭で、黒い帽子を目深にかぶった男が麻袋を抱えて裏口から出てきた。
袋の底から赤黒い液体がぽたぽたと滴り、地面に暗い染みを作っていく。
「……あいつだ」
勇馬は車のドアを静かに開け、助手席のグローブボックスから拳銃を取り出した。
拳銃の冷たい重みが手の中でずしりと響く。
サニーが小さく目を見開いた。
「本気モードってやつね」
「当たり前だ。危険かもしれない相手だ。手ぶらで追えるか」
男は裏門を抜け、雑木林の中へと消えていく。
勇馬はサニーに合図を送り、静かに後を追った。
足元には血の滴った跡が道しるべのように続いている。
「上から見張ってくれ」
「了解!」
サニーは羽音を立てて舞い上がり、木々の間をすり抜けながら先行した。
やがて林の奥に開けた場所が現れた。
中央には腰ほどの高さの水晶台座、その周囲には大小の石が環状に並べられている。
男は台座の前に立ち、麻袋を開いた。
「……生贄か」
袋から取り出されたのは、鮮やかな赤で濡れた動物の肉塊。
まだ温かさを帯び、血がとくとくと滴っている。
「あれって……、あの猿だ!」
「魔力の触媒として、生命力を捧げる儀式ね」
サニーの声はいつになく硬い。
男は懐から黒い水晶を取り出す。
刃のような光沢を持つその石は、昨日サニーが屋内で見たものと同じ――彼女をこの世界に呼び寄せたときに使われたものだ。
「……なぁサニー。あれを止めなかったら?」
「魔物が出る。街ひとつを滅ぼせるクラス」
勇馬は拳銃を握り直す。
額を汗が伝った。
人間相手なら迷いはない。だが、あれは――魔術だ。
「……行けるのか、俺に」
「行くしかないでしょ」
サニーの声が、背中を押すように響いた。
男の呪詛のような声が高まり、赤黒い光が台座の周囲に広がる。
空気は重く、地面は震え、血は水晶へと吸い込まれていく。
「今よ、勇馬!」
勇馬は物陰から飛び出した。
拳銃を構え、男の胸元に狙いを定める。
「動くな!」
男の口元が歪んだ。
呪文が加速し、光が爆ぜる。
地面から影の腕が伸び、勇馬に向かってうねりを上げた――。




