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第二話. 赤い屋根と黒い影

 翌朝。

 時計の針は午前六時半。外はまだ涼しい朝の空気が漂っている。


 ――さて、あの妖精、本当に来るのか。


 公園のベンチで 寝ぼけた頭でコーヒーをすすっていると、耳元で小さな羽音がした。


「おっはよー! 今日も“イイネ!”日和!」


 勇馬の目の前に現れたサニーは、昨日と同じ金髪をくるくる跳ねさせ、空中で一回転する。

 今日は胸元にサムズアップした手が描かれたタンクトップを着ていた。


「……それ、どこで買ったんだ」


「ふっふー、いいでしょー、これ自作なの!」


 その後もサニーの服自慢が続く。どうやら風の強い日に偶然とんできた布で作ったのだそうだ。

 勇馬は苦笑いして、缶コーヒーを足元に置いた。


「で、この写真の場所に案内してくれるんだな」


「もちろん。 ちゃんとスマホも買ってもらいますからね!」


「はいはい…」


「でも適当に飛んでたからー、記憶が曖昧で…。寄り道しながら行こうよー」


「寄り道?」


「映える写真スポットがあったら、スルーできないでしょ」


 この時点で勇馬は悟った。

 今日一日が、思った以上に疲れる日になることを。


 午前九時。

 勇馬の車のダッシュボードにちょこんと腰掛けたサニーは、助手席の窓から身を乗り出して風を浴びていた。

 羽が朝日に透け、虹色の光をきらめかせる。


「うわー、最近の人間の移動手段って快適ね! 千年前の馬車より速い!」


「千年前に馬車に乗ってたのかよ」


「うんうん。あれはあれでロマンあったけど、スピード感はゼロだったわね」


 そんな会話をしていると、サニーの目がぱっと輝いた。


「あそこ! あの赤い屋根の家、見覚えある!」


 勇馬はブレーキを踏み、路肩に車を寄せる。

 しかしサニーは車を飛び出すと、そのまま空高く舞い上がってしまった。


「おい、勝手に行くな!」


 返事はない。

 代わりに、林の方からカァカァという鳴き声が響く。


 五分後。

 サニーはふらふらと戻ってきた。髪は乱れ、服の裾は木の枝で裂け、頬には細かい擦り傷。


「……何があった」


「スマホ盗られた…。」


 サニーが指差した先、木の上で一羽の大きなカラスがくちばしに黒いスマホを咥えていた。


「くっ……あの真っ黒な悪魔が……!」


 サニーは勇馬の腕にしがみつき、上下に揺さぶる。


 あれがないと私……“イイネ!”もフォロワーも、全部パーよ!」


「そんなの知らねえよ」


「ダメぇぇぇっ! お願い、あれ取り返して!」


 羽をばたつかせ、顔をぐしゃぐしゃにして懇願する姿は、必死さと承認欲求の塊そのものだった。


「……ったく。泣くな、わかったよ」


「ほんと!? 神! 恩に着る! 一生分の“イイネ!”あげる!」


「いらん」


 勇馬は木の幹に手をかけ、枝をつかんでよじ登る。

 カラスが警戒の声を上げ、羽ばたきながら後退した。


「よし……あったぞ!」


 巣の中にスマホを見つけたその瞬間、勇馬の視界の端に、昨日の写真に写っていた庭が見えた。


 赤い屋根の奥、雑木林に囲まれた古びた家。その庭に、確かに見覚えのある形の物置と、色褪せたブランコがある。


「……間違いない。ここだ」


 勇馬はスマホをサニーに手渡しながら、低い声で告げた。


 こうして、彼らは犯人の痕跡に一歩近づいたのだった。


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