「ドリームカムトゥルー」
良質な睡眠を妨げるのは外的要因、隣人の騒音やアラーム音だけではない。内的要因も多いに関係していると思う。つまり、睡眠中の夢である。これが自分にとって都合がいい夢、例えば美味しいものを食べていたり美人な女性に言い寄られたりする夢であれば、何時間でも寝ていられる。一方で都合が悪い夢の場合、息苦しくなって自然と目が覚めてしまう。
俺、染岡修二の悩みの種は睡眠だ。いや、睡眠は取れている。眠りに入ることは可能だ。問題は眠った後だ。
残念なことに、どうも最近夢にうなされるようになっている。うなされるということは、自分にとって都合の悪い夢を見ているということ。さらに厄介なのは、妙にリアリティがある夢であるということ。夢を見始めた当初は、ただぼんやりと薄気味悪い空間に俺ともう一人が向かい合っているだけだった。しかし、日が経つにつれてより映像が鮮明になってきた。
舞台は小学校時代、俺のことをいじめていたガキ大将の前原陽一が目の前にいる。場所はおそらく学校の裏山辺りだろう。いじめっ子が目の前にいるというだけで、相当心へのダメージは大きい。そのまま動かずにいてくれればいいのだが、前原はどんどんと俺の方に近づいてくる。その顔は鬼のような形相である。その切迫感がリアルで、夢の中で俺は何度も助けを呼ぶ。ただ、あくまでも夢なのでそう簡単に助けは来てくれない。もう少しで触れられる。そう思った瞬間に目が覚める。背中にじっとり汗をかいている。不快な目覚めだ。アラームを止め身支度をする。今日は一限から授業が入っている。簡単に朝食を済ませ、家を出る。
授業にバイトに精を出していると、当然疲れが溜まる。ベッドに横になるとすぐに睡魔に襲われる。心地よい入眠。しかし、繰り返されるあの夢。何度も何度も前原の顔が登場する。いい加減にしてくれ。
どうも、夢の中で前原は俺のことを殺そうとしてくる。最近では、俺の首に前原の両手がかかり絞めようとしてくる。抵抗はできない。くそ。現実世界でのいじめに飽き足らず、夢の中ではさらに俺を殺そうとしてくる。まさに外道だなと毎朝起きる度に思っていた。
もう前原の顔にうんざりしていた。かれこれ二週間近く同じ夢を見ている。今日も憂鬱な気持ちで眠りに就く。すると、いつもと違った風景が浮かんできた。ここは、中学校の校門の前だ。周囲を見渡す。当然前原の姿はない。やった。遂に夢のループから抜け出せたぞ。自由の身になれたはずなのになぜか釈然としない。ふと背中に視線を感じ振り返ってみる。まさか。沢口麻子がこちらに迫ってきている。
麻子は中学二年の時同じクラスになった。聞くところによると、麻子は中一の頃から俺のことを好きだったらしく、同じクラスになった途端に過激なアピールを始めた。はじめのうちはまだ可愛いものだった。俺が忘れ物をした時に教科書やノートを貸してくれたり、麻子が給食当番の時俺のおかずだけ他の人より多くよそってくれたりした。それが徐々にエスカレートするようになる。一緒に下校しようとしつこく誘ってきたり、移動教室の際には毎回俺の後ろを付けたりするようになった。軽いストーカーである。周囲の男友達に相談しても自慢するな、だのと言われるばかり。女子友達に助けを求めようかと思ったが、こちらも麻子の肩を持つばかりで相手にもしてくれない。
好きでもない相手から向けられる好意ほど迷惑なものはない。しかも、大っぴらに麻子の好意を退けようものなら麻子を取り巻いている女子たちが黙っていない。そのうち家にでも突撃してきたらどうしよう。当時の俺は相当扱いに困っていた。
そんなトラウマの権化のような麻子がどんどん近づいてくる。やめてくれ。ただでさえ嫌な思い出だったのに、また記憶を呼び起こさせないでくれ。必死に俺は逃げようとする。ただ、夢のあるあるかもしれないが大抵こういうシチュエーションだと逃げ切れない。すぐに捕まえられてしまった。俺の首に麻子の両手がかかりそうになる…。というところで目が覚めた。またこの展開か。おそらく前原の時のようにこの後俺は首を絞められるのだろうな。重い体を起こして身支度をすませる。
案の定その後、俺は麻子に殺されかけた。夢の中で意識が遠のいていく。それにしたがってだんだん夢が覚めていく。苦しみながら起こされるから寝起きは毎日最悪だ。麻子の顔までもトラウマになってきた。
麻子が夢に出始めてから二週間後。またもや夢に変化が起きた。なんとまたまた登場人物が変更されたのだ。
舞台は高校の体育館。バドミントン部だった俺はいつもこの体育館で練習をしていた。その入り口から男がこちらに向かってくる。忘れもしない。顧問の寺澤だ。寺澤は部内間で相当贔屓をしていた。簡単に言うと女子には甘く、男子には厳しかった。特に俺に対しての風当たりは強く、寺澤の機嫌が悪いと居残りで練習させられたり、部室や道具庫の整理をやらされたりした。またもや思い出したくない(夢の中ですら会いたくない)人物が出てくるのか。というか多分寺澤も…。俺の悪い予感は的中した。
やはり寺澤も、夢の中で俺を殺そうとしてくる。殺される直前でいつも目が覚める。不快だ。登場人物が変わっても結末は変わらないじゃないか。これではまるで、選択肢を選んでグッドエンディングを目指すゲームで、ずっとバッドエンディングが流れているようなものではないか。時刻はすでに七時半を回っている。まずい、八時の電車に乗らないと一限に間に合わないぞ。朝食もそこそこに俺は急いで家を出た。
何とか一限に間に合った。席に座り、教授がやって来るのを待っていると携帯の通知が鳴る。
[すまん、寝坊したから代返頼む。昼飯奢るから。]また寝坊か。仕方ない奴だな。
[了解。授業終わったら学食に行く]
この授業は、授業の始めに配られる出席カードに名前を記入して授業後に提出する。そうすれば出席扱いとなる。俺は二枚分の出席カードを取り、名前を記入する。この作業も何回目か。もはや数えてすらいない。
一限が終わり学食に移動する。辰巳から、もう席は確保してあると連絡が入っていた。
学食に入り辺りを見渡す。奥の方で手を上げている奴が見える。本来なら二限の時間だからか学生がちらほら座っている程度だ。
「修二さん。本日は誠にありがとうございました。」
「白々しい。たまにはちゃんと起きてきたらどうだ?」
「俺だって努力している。これでも先週はちゃんと起きられたんだぜ。」
「普通は毎週起きられるものなのよ。」
「朝からそんな正論言わないでくれよ…。てか何喰う?ここは俺の奢りだから、好きな物頼んでいいよ。」
話を思いきり逸らされた。メニュー表を差し出してくるコイツは加藤辰巳。大学一年のオリエンテーションで仲良くなった。そこから約一年間キャンパスにいる時は大抵顔を合わせている。きっかけは、たまたまオリエンテーションの席が隣だった。そこでお互い自己紹介を交わした。その後、俺がほんのボケのつもりで、加藤辰巳って名前の中に三つも干支が入っていて縁起がいいね、と答えた。すると、今まで仏頂面だった辰巳の顔がパッと明るくなった。そんなくだらないこと初対面で言われたのは初めてだと。そこから自然と打ち解けていったってわけ。
結局、俺は唐揚げ定食を注文した。
「本当に感謝しているよ。修二の代返突破率100%だもんな。」
「コツがあるのよ。辰巳の筆跡は特徴的だから真似しやすい。」
代返は頼む側にも、頼まれる側にもリスクが伴う。あまり露骨にやり過ぎると単位自体取り消しになる恐れがある。
「マジで器用だよな。修二がいなかったら、おそらくあの授業落単してるぜ。」
「なら明日も飯奢ってくれよ。」
「そこまでの余裕はない。だからその唐揚げは味わって食えよ。」
「無駄に偉そうなのが腹立つな。」
白米をかき込みながらくだらない話に興じていた。
定食を平らげると、寝不足のせいもあってかひどい眠気に襲われた。
「ずいぶん眠そうだな。飯一気に食いすぎたのか?」
「それが困ったことにね、最近寝不足気味でさ。」
俺は最近見ている夢の話を辰巳に事細かく説明した。別に何か解決策を貰おうとしたわけではない。ただ、俺の中で限界が来ていたのかもしれない。人に話すことで少しでもストレスを軽減したいという自己防衛反応が表出したのではないか。
話を聞き終わると辰巳は神妙な顔つきで語り始めた。正直、茶化されると思っていたのでこの反応は意外だった。
「修二安心しろ。お前は【昔の知り合いに殺されそうになる夢】に怯えている。なぜ怯えているか分かるか?」
「それは、いつか殺されてしまうのではないか?っていう恐怖心が付きまとっているからかな。」
俺の反応を見て辰巳は足を組み替える。さながらホームズにでもなったような顔つきだ。「そう。修二は夢と現実を変に結び付けてしまっている。だからその怯えが睡眠の邪魔をしている。ゆえに、夢は夢だと完全に割り切ってしまえば快眠をしていた頃に戻ることは可能だ。」
「そりゃ口では簡単に言えるけど。いざその場面になると気持ちを切り替えるのは難しいって。夢の中の三人は本気で俺を殺そうとしてくるのだから。」
口にするだけでも恐ろしい。
「なら一ついいことを教えてやろう。」
また足を組み替えた。もはやスタイリッシュを通り越してダサくなっている。
「人間の見る夢は自分が体験したことしか見ない。というか見られない構造になっているらしい。つまり、実際に殺された経験をしていない修二は夢の中で殺されることはないということだ!」
力がこもって声が大きい。人があまりいない学食なのだから、もう少しボリュームを落としてくれ。俺のために色々と考えを巡らせてくれたことには感謝しているが。
それにしても夢にはそのような暗黙のルールが存在していたとは。いいことを聞いた。
「殺されないことが分かったのは嬉しいのだが、寝苦しいという問題は解消されない。その点に関してもう少しアドバイスもらえないか?」
どうやら夢については俺よりも辰巳の方が詳しそうだ。だったら有識者からアドバイスをもらった方が効率的であろう。
「うーん。夢を見なくてもいいように体を疲れさせるとか。運動して汗を流してさ。」
「だから、どれだけ疲れていても夢は見ちゃうのよ。その上で何かアドバイスはないかなと思って。」
「そんなもん分からん。自分で検索してみた方が早いと思うぞ。」
急にぞんざいな態度になった。なんだよ。結局自分が知っている雑学を俺に披露したかっただけかよ。辰巳は興味を持つと相当ハマるのだが、その分冷めるのも早い。もう俺の夢への興味が薄れているということか。
「分かったよ。俺なりに調べることにする。」
解決できるといいなー、辰巳はきつねうどんを啜りながら適当に返答している。まったく人の気も知らないで…。
講義が終わった後、図書館に設置されているパソコンで夢について調べた。明確な悪夢の対処法は得られなかったのだが、興味深い話を目にした。俺が閲覧した「夢占い」のページによると、他人に追いかけられたり、殺されそうになったりする夢は自分自身が生まれ変わるきっかけを暗示していると。つまり、自分が殺されることによって新たな自分が生み出される、という一種の転換期に差し掛かっているらしい。なるほど。悪夢だからといって俺にとって悪いことが起こる予兆ではないらしい。むしろ、自分自身を見直すためのいいきかっけをもたらしてくれる。そんな可能性も秘めているということか。
別の夢についてのサイトによると、「毎回同じ夢を見てしまう場合、夢の中でのあなたの行動がルーティン化されている可能性があります。たまにはいつもとは異なる行動を起こしてみると、何かしら変化がもたらされるかもしれません。」とも書かれていた。たしかに。そういえば俺は夢の中で、前原・麻子・寺澤にされるがままであった。別に俺の夢なのだから行動は自由だ。進んで殺される結末を享受する必要性はない。試してみる価値ありそうだ。
その日の夜、ベッドに入り意識が夢の中へと入っていく。今日は前原が登場した。いつものように、前原は俺の方にずんずん向かってくる。俺の首に前原の両手が掛けられそうになる。ここだ。俺は抵抗を試みた。俺の手と前原の手が重なる。まるで押し相撲をしているかのようだ。両者一歩も引かない。しかし、腕力に差が出たのか前原に押し倒されてしまう。結果的に首を絞められてしまった。
目が覚めると朝になっていた。また殺される寸前まで追い詰められてしまった。しかし、収穫はあった。抵抗は頑張ればできるということだ。これは少々改良の余地があるのかもしれない。
夢の中。今日も前原がお出迎え。先日はシンプルに腕力で敵わなかった。ならば、こちらは武器を使わせてもらう。俺は手頃な角材を手に取った。改めて考えてみれば、自分の夢だからその辺のコントロールは可能である。ただ、よりにもよって前原も角材を持っている。夢の中では条件はフェアでなくてはいけない決まりでもあるのか。こうなっては仕方ない。俺は勝負を仕掛けた。
いつもなら前原から近づいてくるが、今回は俺から前原にねじり寄っていった。前原に角材を振り下ろす。しかし、当たらない。二回、三回、四回。何度チャレンジしてもかすりもしない。さすがに夢の中でも疲れが溜まってしまったようで、俺は足元のバランスが取れなくなった。よろけたところに前原の反撃。俺と同様に角材を振り下ろしてきた。頭にヒット。その後も俺の攻撃は当たらないのに、前原の攻撃だけは的確に俺の体にヒットしていく。もういい加減にしてくれ!叫ぼうとした瞬間、夢が覚める。なんだかいつもより汗をかいている気がする。
夢の中で抵抗をしてみて気づいたことがある。まず、何か武器を持つ時は、必ず夢の中の三人も俺と同じ武器を持っている。そして、最初の数分間は抵抗できそうな雰囲気があるにもかかわらず、その後こちらからの攻撃は全く当たらなくなるということ。対して、相手からの攻撃は全て俺の体に注ぎ込まれることになる。つまり、夢の中で相手に反撃すればするほど自分に返ってくるダメージの総量は増えるということだ。これならば以前のように大人しく殺された方がまだマシだ。
この新発見を早く辰巳に話したい。そんなことを考えていた水曜日。一限のために教室に入るや否や通知が鳴る。また代返の連絡。全く、全然進歩のない奴だな。仕方なく辰巳の名前を書き提出をする。
授業終わりに学食に向かったところ、たまたま辰巳の姿を見かけた。ちょうどいい。話したいこともあるし、ついでに飯を奢ってもらおう。
「辰巳くん。おサボりして学食とはいい御身分ですな。」
「げ、修二。」
げってなんだよ。そこまでのけ者にしなくてもいいだろう。などと考えていると、辰巳の対面に見知らぬ女の子が座っていた。
「もしかして、あなたが修二君?」
「え、そうだけど。」
「はじめまして。奥村理絵です。人文学部の二年です。よろしくね。」
気持ちのいい挨拶だ。俺も頭をペコリと下げる。
「おい辰巳どういうことだ。もしかして…。」
「お察しの通り。俺の彼女。」
なんてことだ。どうして、朝起きられず他人に代返を頼むような奴に彼女ができるのか。本当に謎だ。
「お前、彼女いたのかよ。」
「いや本当に最近できてさ。まだ一か月も経ってないくらいかな。」
「そうだったのか。じゃあ、俺日替わりランチBで頼む。」
辰巳がは?という顔でこちらを見上げる。
「今日奢るとは言ってないぞ。」
「おいおい。俺には代返させておいてそれはないだろう。辰巳は彼女とキャッキャウフフしていたのだから。その時間を確保してあげた俺に対して労いの気持ちはないのかい?」
染岡修二です、短く簡潔に自己紹介を済ませる。奥村さんもそれに返してくれた。
「言い回しがおじさんすぎるだろ。」
辰巳が奢るまで駄々をこねているとさすがに折れてくれた。その間、奥村さんはケタケタ笑っていた。
日替わりランチを食べていると辰巳の方から話を振ってきた。
「そういえば。その後修二の夢に進展あったか?」
「夢?お医者さんになるとかっていう話?」
奥村さんの発言に思わず笑ってしまう。
「そっちの夢じゃなくてね。ほら寝ている時に見る夢の話。」
「そっちか。ごめんなさい。勘違いしちゃった。」
あどけない笑顔を向けてくる。奥村さん、案外天然の素質もあるのだろうか。
俺は今までの悪夢の概要と、この間辰巳に言われたことを実践してみた結果を二人の前で報告した。
「なるほど。抵抗は無意味か。また新たに対策を立てる必要があるか。」
「そうだな。振り出しに戻った感じだ。」
「まだまだこれからだろ。」
俺を励ましてくれているのかもしれないが、慰めの言葉として適切ではない気がする。
「何だか面白そうだから、私も手伝いたいかも。」
「ならこの後、講義終わったら図書館にでも行くか。」
辰巳の誘いに、賛成―と奥村さんが元気よく答える。
「いいのか。二人とも予定とかあるわけじゃないの?」
「ないない。どっか行くにしても給料日前で金ないしさ。」
「辰巳君、給料出た次の日にもう同じこと言ってたよ。」
「あれ、そうだっけ?」
とぼけた顔を見せる辰巳にじゃれている奥村さん。完全にこの空間に邪魔な人間が一人いる。そう、俺のことである。
その後、授業が終わり俺は図書館に向かおうとした。携帯を確認すると辰巳からメッセージが入っていた。
[悪い。急遽店長に呼び出されたからバイト行くわ。今回は俺抜きで図書館行ってくれ]
なんて無責任なのか。いきなり友達の彼女と図書館はちょっと気まずくないか?
[安心しろ。理絵は図書館に来てくれるらしいから。]
それが一番安心できないんだけどな。でも、ここまで来て俺が行かないというのは人としてまずい気がする。少し緊張気味で図書館へと向かう。
奥村さんと合流して図書館を散策する。始めは会話がたどたどしかったが、夢に関する資料を探し出してからは自然な会話になった。あれこれと書籍を読み漁ってみたが、その日有意義な情報は見つけられなかった。そこまで拘束するのは申し訳ないと思い、二時間で解散した。夢についての情報を共有するために奥村さんと連絡先を交換した。
その後、辰巳や奥村さんからいくつか夢に関する情報が送られてきた。だが、溜まっていたレポートに追われたり、大学が試験期間に突入してしまったりしてなかなか返事ができなかった。
俺の夢は相変わらずで、週ごとに人がローテーションされながら俺は殺されそうになっていた。ただ、もう抵抗することにも疲れてしまったため、俺はされるがままになっていた。今までは目の前にいる前原・麻子・寺澤に注意が向いていたが、殺されることに慣れてくると視野の範囲がどんどん広くなっていった。すると、周囲の情景がだんだん鮮明になってきた。それに付随するような形で、昔の記憶も断片的に思い出されていった。前原には裏山で散々殴られたな。麻子にはいつも校門の前で待ち伏せされて鬱陶しかったな。寺澤は何かあるとすぐ屋上に俺を呼び付けて、延々と説教をしていたな。昔は笑えなかった出来事も、今となっては少々懐かしさを感じてしまう。人間というものは不思議な生き物だ。
試験勉強で疲れていたのか、その日はいつもより早めにベッドに入った。夢の中ではお決まりのパターンが完成されようとしていた。そろそろ首を絞められるなー。そんな風に考えていると、視界の端で何か黒いモヤのようなものが見えた。
次の日もそのモヤは夢に現れた。ぼんやりと漂っているのだが、直感的にそのモヤの中から視線を感じた。
三日目、四日目とだんだんとモヤの輪郭が鮮明になっていく。すると、だんだん人型になっていったのだ。どこかで見覚えがありそうな気がする。
五日目とうとう正体が分かった。辰巳だ。
六日目、その日は前原・麻子・寺澤の姿がなかった。もしかしたら遂に解放されたのか?そう思ったのも束の間。目の前には辰巳が立っていた。ジリジリと近づいてきて、他の三人と同様に俺の首に両手を押し当ててくる。
七日目、八日目。徐々に辰巳の両手に力が込められる。
もう試験週間も大詰めとなった十日目。完全に辰巳は俺の首を締め上げていた。これは一体どういうことなのだろうか。正直言って不気味だった。
試験の日程は終了し、少しばかり開放的な気分になった。しかし、俺の夢に関する謎は深まるばかり…。そうだ。ちょうど試験期間も終わったことだし、辰巳に連絡を入れてみることにしよう。久々に俺は辰巳のメッセージ欄を開いた。
[久し振り。試験も終わったことだし、どこか飯でも行かないか?俺の夢について話したいこともできたし]
メッセージを送信して十分もしないうちに通知が届く。
[分かった。俺もちょうど話したいことがあるからさ。]
「了解。店どこにしようか。」
[外に行くのが面倒だから俺の部屋集合でいいか?]
[え、いいのか。迷惑じゃない?]
[いいよ。むしろそっちの方が都合いいし。]
[了解。一○三号室だっけ?]
[そうだよ。]
辰巳の部屋には何度か行ったことがある。久々に友達の家に行けることに、若干興奮していた。
二日後、辰巳の部屋の前に到着。着いたら電話を掛けてくれとのことだったので発信ボタンを押す。ガチャ。玄関のドアが開き、辰巳が顔を出した。
部屋の中は、以前来た時よりも散らかっていた。俺が言えることではないが、客人を招き入れるならもう少し片付けておけよと思った。
「散らかっていて悪いね。試験期間と体調不良が重なってさ。あまり掃除する気になれなかったのよ。」
「別に気にするなよ。俺が彼女だったらちょっと問題になっていたかもだけど(笑)。」
一瞬辰巳の顔が曇ったように見えた。こちらに向き直り、辰巳は仕切り直す。
「ええと、何か俺に話したいことがあったんだっけ?」
「そうそう。俺が見ている悪夢があるだろ。なんとその中に辰巳、お前が登場してきたんだよ!」
久し振りに辰巳と話せる高揚感からか、少々声が大きくなってしまう。
「話ってそれだけ?」
いつもの辰巳なら乗ってきてくれるはずなのに…。今日の辰巳の反応はずいぶんと素っ気ない。
「それだけも何も、俺にとっては重要なことだぞ。何なら、最近は他の三人と同様に俺の首を絞めてくるんだから。」
「そりゃ気分がいいな。ただ、俺はもっと重要な話をしてくれると期待してたけどな。」
ブツブツと辰巳は何か呟いている。
「おい、どうした。様子が変だぞ。いつもの辰巳じゃないみたいだ。試験勉強のしすぎで頭がどうかしてしまったのか?」
冗談半分で言葉を投げ掛けてみる。
「頭がおかしいのはお前の方だろ!」
急に大声を出されて体が硬直する。
「どうして、あんなことを…。全部お前のせいだ!」
「急にどうしたんだよ。とにかく落ち着けって。」
「うるさい!そっちから謝罪してくるのならば、まだ話し合う余地はあった。それなのに、くだらない夢の話を聞かされて…。もううんざりだ。お前のせいで俺の生活は台無しだ。俺だけじゃない。あの子だって…。」
まずい、話が通じないぞ。相当頭に血が上っているみたいだ。
「お前の顔を見たら、腹が立って仕方がない。もう俺の手で終わらせるしかない。」
どこに隠し持っていたのか、辰巳は懐から包丁を取り出す。
「待てって。落ち着いてくれ。俺が何をしたっていうのだ。」
「ここまできてまだとぼけるのか。もう我慢できない。殺してやる。」
包丁を振り回しながら俺に迫ってくる。まずいぞ、これは。夢の展開と全く一緒じゃないか。辰巳との格闘中、俺は何かを踏んでしまった。その拍子にバランスを崩し、転んでしまう。辰巳が上に覆いかぶさってくる。振り下ろしてきた辰巳の腕を、俺は両手で押さえる。何だ、辰巳は何に怒っている?試験前のメッセージを放置して、返事をしなかったこと?去年飯代として借りた二万円を未だに返していないこと?辰巳の好きなアイドルをAV女優みたいだと揶揄したこと?一体どれなのか。極限状態の中で、脳味噌をフル回転させる。必死に記憶を呼び起こす。刃先が眼前に迫っている。その時、何かが閃いた。
「もしかして、奥村さんとヤったこと?」
そう言い放った直後、辰巳の力がフッと軽くなった気がした。今がチャンスとばかりに必死にもがき、馬乗りになっていた辰巳から逃れることに成功。形勢逆転とまではいかない(辰巳はまだ包丁を持っているから)にせよ、どうにか態勢を立て直すことができた。そこで辰巳の顔を見ると、涙が溢れていた。さっきまで怒っていたのではなかったか?感情の起伏がジェットコースタ―くらい激しい。
「ど、どうしてあんなことをしたんだ。」
悲しみに震える声で辰巳は問いかける。
「単純に奥村さんに興味が湧いたからかな。いい子そうだったし。それに、辰巳はこの子のどこに惚れたのかなって気になったのよね。」
「ふざけんなよ。倫理観どうなってんだよ。人の彼女に手出しやがって。」
辰巳の泣きじゃくる声が室内に響く。そこまで悲しむとは…。正直考えてもいなかった。
「お前が理絵を誘わなければ、こんなことにはならなかったのに…。」
「そこまでしつこく誘ってない。それに人の彼女って言うけど、別に奥村さんは辰巳の物じゃないよ。婚約しているならまだしも、大学生のカップルなんて社会人になる前に大抵別れちゃうもんだしさ。」
「屁理屈なんて聞きたくない。俺は理絵のためなら死んだっていい。そのくらいの覚悟を持って付き合っていたさ。」
辰巳の意志は相当固いらしい。そこまでの覚悟があるなら、怒るのも無理ないか。
「奥村さんと話していて感じたのは、彼女は知的さの中にも可愛げがある。こういうところに辰巳は惹かれたのかも…と思ったよ。ただ、奥村さんに忠告しておいた方がいい。押しに弱いところは気を付けた方がいい。そこまで親しくない男の部屋に簡単に上がったらダメだよって。」
「うるさい。そんな話は聞きたくない!」
なんだよ。せっかく親切に教えてあげたのに。
「じゃあ、あの動画を流出させたのもお前か?」
「動画?ああ、行為中のやつか。あれは俺じゃない。」
「とぼけるのも大概にしろよ。」
刃先をこちらに向けてくる。先端恐怖症だったら、おそらく耐えられない光景だろう。
「本当だ。連絡先だってたまたま交換しただけだし。ただ、後々確認するために隠しカメラはセットしたけど。ネットにあげようとは思ってなかったよ。あ、もしかしたら友達があげたのかも。あいつら、見るだけだからっていうからデータ渡したのに…。本当にどうしようもない奴らだな。」
「どうしようもないのはお前だよ。」
急に辰巳の声のトーンが下がった。
「理絵はそれが原因で学校にいられなくなった。色々な噂を立てられて、今は学校を休んでいる。そんな理絵のことを考えたら、俺だって平気な顔して学校には通えない。だから、俺もしばらくは引きこもっていた。」
なるほど、部屋が散らかっていたのはそのせいか。
「でも久々に会う人が俺ってことは、親友ってことだよな?そのことで悩んでいたなら、早く相談してくれれば良かったのに。」
辰巳のためだったら、試験期間中でもすぐに飛んできたと思う。
「そうか。親友なら俺の頼み聞いてくれるよな。」
「ああ。何でも言ってくれ。」
「なら今ここで死ね。」
包丁を振り上げ、真っすぐ向かってくる。まだ諦めたわけではなかったのか。散らかったままの部屋でもみくちゃになる。辰巳が何かにつまずいたのか、よろけてしまう。そこに俺は体当たりをかます。二人して盛大に転ぶ。まずい。このままではさっきみたいに馬乗りにされてやられてしまう。グッと身構えたのだが、反応がない。よくよく辰巳のことを確認してみると、腹部に包丁が突き刺さっていた。辰巳のシャツが赤黒く染まっていく。
「くそ、こんなところで俺は死ねない。」
包丁を引き抜こうとする辰巳。
「ダメだ。抜いたら血が大量に吹き出すぞ。そのままにしておいた方がいい。」
辰巳は両手で包丁を握っている。俺はその上から自分の両手を添える。包丁をさらに押し込んでみる。痛みに悶える辰巳の口からは、悲鳴なのか絶叫なのか分からない声が聞こえる。こんな気持ちが昂ったのは久し振りだ。あれ、おかしいぞ。俺はこの感情の昂りをどこかで経験している。その時、何かが覚醒したのかもしれない。記憶の扉が開いたような気がした。
小学校の頃、前原にいじめられていた。クラス内でも前原にいじめられている奴は何人かいた。自慢じゃないが、その中でも俺は断トツでいじめられていた。そんな前原との関係の中で日課があった。それは、例の裏山で放課後にプロレス技や格闘技の技を俺にかけるというものだった。顔面を殴るわけではないため、傷跡が残らない。ゆえに、いじめとして暴力を振るわれたという証拠が残らない。いじめっ子は簡単に証拠を残さないんだなと、子どもながらに感心した。
その日も裏山に呼び出された。いつもならいじめられて解散になるはずだった。しかし前原は、面白いものがあるから付いてこい、と俺に呼び掛けた。付いていくと裏山に小さな古い井戸があった。ちょうど心霊系番組が流行っていたからか、学校でもホラーがブームだった。前原もハマっていたようで、井戸の中を覗き込んでいた。前原も幽霊にビビるのかな。好奇心に駆られた。夢中になって井戸の中を覗いている前原。そーっと近づいていき、後ろからわぁと驚かしてみた。
前原は俺の予想以上にびっくりしていた。その反動で頭から井戸に落ちそうになってしまった。かろうじて井戸の縁に両手がかかっている。助けを求めてくる前原。その姿を見た時初めて前原より優位に立った気がした。そのうちに前原の力が尽き、井戸の中に落ちていってしまった。その時、反射でまずいと思い全速力でその場から離れた。その日、俺は眠れなかった。ただ、助けられなかったことへの罪悪感からではない。前原の泣き顔に対して一種の興奮を覚えていたのかもしれない。
翌日、当然前原は学校に来なかった。前原の欠席が三日、四日、五日と続いていくうちに、さすがに何かおかしいぞとクラスがざわつき始めた。俺は内心ビビっていた。その一方で妙に冷静な自分もいた。冷静というか現実から目を背けていたのかもしれない。実は前原はまだ生きていて、病院に入院しているのではないか。だから、欠席という扱いになっているのではないかと。しかし、欠席が一週間続いたところで担任が俺たちに告げた。「残念なことに前原君は不慮の事故で亡くなった。」と。どうやら遺体が発見されたらしい。ただ、今不慮の事故と言っていた。ということは、前原は勝手に落ちて死んだと判断されたということだ。これで俺が疑われることはない。俺は胸を撫で下ろした。
この時俺はこう感じた。人はこんな簡単に死んでしまうものなのか。そして、簡単に忘れ去られてしまうのかと。生きている人間を殺すと、存在そのものを抹消できる。これってものすごく気持ちがいいな。子どもながらに快感を覚えていたのかもしれない。
中学では麻子という半ストーカーのような女子に付きまとわれる日々が続いた。正直、一番タチが悪かった。麻子を取り巻く女子連中は、意地でも俺と麻子をくっつけようとしていた。男子連中も、俺が困っていることを相談しようとしても、モテていいですなとまともに取り合ってくれなかった。
これは俺一人で何とかしなければいけないと考え、実行に移すことにした。
なるべく麻子が一人の時を待った。そして、とうとうその日が訪れた。たまたま、一人で下校する麻子を発見し、俺は声を掛ける。まさか、俺の方から声を掛けてくるとは思っていなかったようで、ずいぶんと嬉しそうだった。校門前で話をして、俺はある一本の動画を見せた。それは、俺が他校の女子とキスしている場面だ。先日家に招き入れた女子である。そう、つまり俺には別に好きな人がいるという体にして、麻子の恋を諦めてもらおうと試みた。どうせ口で言っても麻子は信用しないだろうから、こうして映像で見せた方が早いと考えたのだ。キスシーンだけでは事実として弱いかなとも思ったので、そこからセックスをする手前まで麻子に動画を見せた。これできっぱり諦めてくれるだろうと考えていた。
土日を挟んで、登校した月曜日。麻子は欠席していた。というか、その日からもう学校に、この世にいなくなっていた。俺の動画を見た金曜日の夜、麻子は部屋で自殺していたらしい。幸いにもあの動画の話を友達に拡散していなかったようで、麻子の自殺の原因が俺に向くことはなかった。
中学生の俺はさらなる発見をした。直接手を下さなくても、人間は精神を攻撃することでも殺すことが可能であると。何とも興味深いなと興奮を覚えた。
高校の頃、俺はバドミントン部に所属していた。そこで寺澤という残念な教師に出会うことになる。彼は部の顧問であったが、自分好みの生徒は存分に贔屓する、嫌いな生徒はいじめの対象にするという極端な人物だった。(ほとんど女子ばかりを贔屓していたのだが)その中でも俺のことは特に嫌っていたようで、機嫌が悪くなると俺だけフットワークのメニューを増やされたり、休憩なしでヘアピンやスマッシュの練習をさせられたりした。
前時代的なしごきに嫌気が差していた俺は、寺澤を抹消する計画を立ち上げた。まず、寺澤の靴箱にバド部で一番寺澤が可愛がっているリナの名前を書いた手紙を入れる。もちろん、筆跡でばれないように細心の注意を払って手紙を書く。手紙は、寺澤先生から個人的な指導を受けたいだのと誘惑するような内容のものにする。そして、寺澤を屋上に誘い出してネタばらしをする。
決行日当日。屋上で待っていると、見るからにスケベな顔をした寺澤が階段を上ってきた。俺は、手紙の内容は嘘であることを伝えた。そして、未成年の誘いに乗ろうとした淫行教師、という噂を流されたくなければ部員たちを差別することを止めるよう交渉を試みた。ところが寺澤はうすら笑いを浮かべてこう呟く。
「誰がお前の言うことなど信じるか。いいか。社会的に見れば教師である俺の発言の方が重視される。よく覚えておけよ。」
それから寺澤は無能だ馬鹿だと散々罵ってくれた。いいぞ、今のところ計画通りだ。
「たしかに、俺の言うことなど他の先生の耳に届かないかもしれません。ただ、寺澤先生自身の発言だったらどうでしょうか。」
懐に入れたボイスレコーダーを取り出す。
「教師から精神的苦痛を受けた。という報告を教務や教頭に相談すれば、タダでは済まないですよね?」
寺澤の顔が一瞬にして青ざめる。
「今すぐにそれを渡せ!」
余裕がなくなったのか語気が強くなる。いいぞ、そのままこっちに来い。逃げ回りながら、あらかじめ準備しておいたポイントに移動する。フェンス際に追い詰められた!フリをする。寺澤がジリジリと距離を詰める。
「大人しくそれをよこせ!」
寺澤は俺に飛び掛かる。今だ。俺はクルリと体を反転させて避ける。寺澤はその勢いのままフェンスに激突した。本来ならフェンスが寺澤の体を受け止めてくれる。しかし、俺の仕掛けによってフェンスが簡単に突き破れるようになっている。ガシャンという音と同時に、わぁーという断末魔が響く。ドシャという鈍い音が聞こえ、その後生徒たちの悲鳴が聞こえる。よし!上手くいったぜ。フットワークをやっていたおかげですんなり避けられた。この点に関しては寺澤に感謝しないと。あとは事前に用意していたメモが役に立ってくれるはず。俺は工具箱を屋上に置き、素知らぬ顔で玄関口へと向かった。
教頭の机の上に書かれたメモには、[屋上のフェンスが壊れて外れそうだった。修繕のために工具箱だけお借りします。一応報告までに。]と寺澤の文字で書かれていた。
「生徒思いが仇になってしまったこと、非常に残念でなりません。皆さん、寺澤先生に黙祷をしましょう。」
全校集会で校長が泣きながら語っていた。そう。寺澤は事故死として処理された。全て計画通りに事が進んだ。自分が怖くなってくる。
未だに母校では、生徒のために体を張った教師として語り継がれているらしい。有言実行じゃないか、寺澤。部活中にもよく言っていたもんな。「俺はお前たち生徒を守るために教師をやっているんだ!」ってさ。夢が叶って良かったじゃないか。
辰巳から流れる血から、俺の中に閉じ込められていた記憶の断片がつながった。そう考えると、俺の夢の内容にも納得がいく。そういえば辰巳、こんなことを言っていたよな。
「人間の見る夢は自分が体験したことしか見ない。」
俺は夢の中で殺されなかった。当たり前だ。だって夢に出てきた三人は、全員俺が殺したのだから。
「やっぱり辰巳、お前って物知りだよな。」
はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははは…。
自然と笑いが込み上げてくる。辰巳が親友で本当に良かったよ。
そんな親友の死をありきたりなものにしたくない。家を出る直前、机の上に書き置きを残した。もちろん辰巳の筆跡で。
[理絵、ごめん。理絵のことを守れない俺は彼氏失格だ。本当なら理絵の傍にいるべきなのだろう。でも、役に立たない彼氏が理絵の横にいたら、また理絵を苦しめることになると思う。だから、俺は自分でケジメを付ける。俺の死をもって、今までの辛かったことを一旦リセットしてほしい。もちろん、理絵のせいで死ぬわけじゃない。俺は、理絵のために死ぬ。この死は理絵に捧げたい。今までありがとう。心の底から愛してる。]
どう、辰巳。お前の夢、俺が叶えてあげたぜ。また学食奢ってくれよな。
その後、この手紙を読んだ奥村理絵は、心労に耐えかねて首を吊ったらしい。奥村さん自殺のニュースは、テレビや新聞でけっこう取り上げられた。でも、俺は報道される前から彼女の死を知っていた。それはなぜかって?みなまで言わなくても分かるよな…。
短編小説になります。気軽に感想やいいねしていただけると嬉しいです!




