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星新一風未来のリモートワーク

作者: 稀Jr.

星新一のショートショートにリモートワークの話がある。扉の向こうがリビングだったというオチである。今では当たり前になってしまっていて、オチにならない。なんだ、いまと同じじゃないか、と思いつつ、未来はこんな風に想像していたのだなと感心する。

実際のリモートワークはもっと進んでいる。WEB 会議をすると複数の人と会議ができるし、スマホを使っていつでもチャットができる。出社している映像は、そのまま表示するものもあれば、背景を変えることもできる。アバターを使って姿を変えることもできるのだ。もはや、誰が出社しているのかわからない状態になっているが、会社としては出社しているという事実が必要なのであって、中身は問題ではない。建前が必要なのだ。

リモートワークができない職業というのもあった。介護職とか、工場勤務とか、飲食店とか、小売の接客業とかそういうものはリモートワークに適さないとされていたんだが、今は異なる。これらの職種もリモートワークができるようになっている。小売の接客業なんて、小国から日本へのリモートで対応していたりする。しかも、小国の店員はモニタを複数台用意しておいて、複数の店舗で接客を行う。なんてマルチなんだろう、と思う。同時に客が来たらどうするんだろう、と思うが、そこはベトナムである。うまくやっている。どううまくやっているかは企業秘密なので教えられないが、うまくやっているに違いないのだ。


「ちょっと、あんた、これ、袖のところがほつれてるじゃない」

ほら、早速クレームがやってきた。小売の接客業はニコニコしていればよいという訳ではない。何人かにひとりの割合でクレーム客がやってくる。これも接客のうちだ。

H は、にこやかに対応した。

「お客様、申し訳ございません。恐れ入りますが、値札のバーコードを見せて頂けますか?」

「はい、これよ」

「ありがとうございます。少々お待ちくださいませ」

H は、モニタを眺めて、頷いた。バツ印がついている。これは、この店で買っていないことを示す印だった。いわゆる、他の店舗で買った粗悪品を持ち込んで、クレームをして返金させようとする輩がいるのだ。

「お客様、申し訳ございませんが、こちらの商品は当店でお買い上げ頂いたものではないようです。少々お待ちいただけますか?」


H は、バーコードを読み取り、売り出した店舗の情報を洗い出した。

そして、リモート電話を店舗に掛けてみる。

「もしもし、あのー、こっちにそっちのクレーム客が来ているんだけどどうにかしてくんない?」

「え? ああ、はいはい、すみません。ええと、申し込み ID の方を見せていただけんすか?」

「はい、これよ」

「ありがとうございます。少々お待ちくださいませ」

K は、モニタから申し込み ID を読み取った。早速、情報検索してみると、ああ、これは、悪徳販売協会の ID が載っていた。道理で、口が悪いはずだ。ただ、このままだと面倒なことになりそうなので、敏腕刑事にリモートで連絡をしてみよう。

「ええ、すみません、ちょっとお調べ致しますのでお待ちいただけますか?」


K はモニタに話しかけた。

「ちょっと、刑事さん。あんた、本当に仕事をしている。ここの ID のところからクレームが入っているんだけど、これって、先月に入ったばかりなんだよ。仕事してんの? 全くー」

「はい、すみません、少々お待ちください」

刑事は、モニタの顔写真をキャプチャして、犯罪手帳と照合させた。ああ、なるほど、こいつは、悪徳販売会社の会員だ。ID 検索とかなんとか言っているが、要するに、カツアゲのようなものだ。こいつは、下っ端だけど、あれこれ長引けば、上の方に話が行く。その瞬間を使って捕まえればいいな。

「ええ、なるほど、それはお困りですね。少々お待ちください」


刑事は、緊急出動を機動隊に要請するためにモニタを切り替えた。

「おい、こら、なにやってんだよ。居眠りでもしているのか。仕事だ、仕事。さっさと出動してカチコミしてこいや」

「は、はい。了解です。ただいま出動致します」

機動隊員は、刑事の顔を見ながら敬礼をするものの心の中ではペロリと舌を出していた。毎度毎度、この刑事は俺たちをこき使いやがって。だいたい、ガセネタが多くて、出動するはいいけど、間違って隣の家にカチコミしてしまって「あの、すみません、間違っていませんか?」なんて言われる始末だ。実際、住所がひとつ間違っていて、実際のヤクザは隣だったりした。えらい騒いでいたから、ヤクザの連中は裏から逃げ出してしまったのだ。

しかし、仕事は仕事だ。機動隊はしぶしぶ、出動のために制服を着ようとロッカーを開けた。

制服がハンガーに掛かっているが、あれ、袖のところがほつれているぞ。

全くもう、これはクレームを入れなくちゃいけない。


「ちょっと、あんた、これ、袖のところがほつれてるじゃない」


【完】


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