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第七話 下を向く小説家

 「………なるほどな、これが()()()()が書いた私小説か」


 一人の青年がソファに転がり、スマホの画面を見ながら呟く。感想画面を開き、文字をフリック入力していく。


 カチカチカチ


 キーボードの音が部屋に響く。

 彼は最近、「小説を書いて読んでみよう」に投稿し始めた者である。


 「やっぱり人気作家だから重みはある。でもどうせこの人も最初から爆発的な人気があったんだろうなー」


 スマホの画面を切り替え、とある小説のpv分析画面へと飛ぶ。

 タイトルは「転生したら最強でした」、近年アニメ化も噂されている人気小説。完結してから三年ほど時間が経過しているものの、連載当初以上に伸びている。


 「えっ………なんだこの数字」


 青年は思わず自身の目を疑った。日別のpvを覗いてみると驚きの結果が現れたのだ。


 「pv24って……こっちは3?! 何があったんだ?」


 そう、彼の予想とは大きく違いありえないほど小さな数字だった。

 現在では万越えが当たり前である。そのように人気を博す小説は投稿して数日でその兆しが見える。

 

 だが「転生したら最強でした」はその展開を裏切った。初期の頃で最もpvが多かったのは100越えだ。それ以降は右肩下がりである。


 「おかしいな、異世界転生したから気ままな生活をはもっと勢いがあったのに……しかも、この人たち投稿したのが同じ日だ。


 まぁ人気作家が全員同じ数字を手に入れてる訳がないのか……」


 青年は画面を切り替える。次に開いたのはマイページ。そこには泣け無しのpvと評価のついた小説が。

 

 そう、この青年はつい最近投稿を始めた者。書きたいと思ったのは著者「カラバズミル」が書いた「転生したら最強でした」に影響を受けたからである。


 ノリと勢いでプロットを書き、数話を投稿してみたものの、作品の山に埋もれつつあるのだ。


 「あーあー、いいよな、あの人たちは埋もれてないから。どうしたらそんなに続けられるんだろ、やっぱり気にしすぎなのかな」


 やはり、投稿する側として一番に気にするのは利益、つまり「数字」である。見てくれた人、評価してくれた人、コメントを書いてくれた人、それらの「結果」が気になるのだ。


 「……目先のことに囚われるなって書いてた以上、あの人も初めは気にしてたんだろうなー。やっぱり、駆け出しって皆同じか」


 「あーあー、良いよなー、あの人たちが書いた時はさまだ人気が低かったし、それに比べて今はさ大変なことになってるし」


 「小説を書いて読んでみよう」では近年、異世界ファンタジーが作品のほとんどを占めるようになって来ている。

 そのため、同じジャンルでは埋もれやすく、他ジャンルでは読まれにくい傾向にある。


 人気になっているのはいつも、数年前から投稿している作家たち。そのため、経験と固定読者があるのだ。

 それに比べて新人は厳しい環境で成り上がりを目指す、下克上の時代。その厳しさは類を見ないほどであり数ヶ月で諦めてしまう人もいるのだ。


 「はぁ……やっぱり辞めようかな、小説家になるなんて俺には無理そうだ」


 ポツリと呟くと、赤字で「作品を削除する」と書かれたボタンに指を伸ばした。あと少し、ほんの数ミリでも近づけたら削除ができる。

 だが、そこで止まった。


 「……置かれた場所で咲きなさいか」


 青年の脳裏に過ぎったのは私小説に書かれていたもの。作者のカラバズミル、その親友が彼に掛けた激励の言葉。それがあったからこそ、その作家は現在まで活動が出来ている。


 逆境をものとせずに正面から当たりにいく。苦しいものだろう、結果が出ずに泣く日もあるかもしれない。


 「やっとできた趣味だし、やってみたいな」


 無意識にそう言っていた。

 その言葉通り、彼は今まで趣味と呼べるほど熱中できたものは無かった。そんな中で唯一好きだったのが読書。

 デジタル書籍に手を出した時に、そのサイトの存在を知り投稿を始めた。


 初めて創作をしたとき、前例のないほどの胸の高鳴りを感じだのだ。そこから毎日、小説のことで頭がいっぱいでどんな時も次の話の展開を考えていた。


 「だけど、今まで努力したことないんだよね。長続きしないし」


 彼は自身の短所を憂いた。今まで継続をしてきたことのない自分が本当にできるのか。


 そんな時、ある事が脳内に浮かぶ。それは去年、学校で友達に言われたことだ。


 「ほんとに羨ましいわ、その()()俺もほしい」


 体育の授業中にサッカーの実技テストで高得点を叩き出した時のこと。自分の才能が羨ましいと、ハッキリ言われたのだ。


 「羨まれた人間が羨む側になったか、だけど俺は知ってる、あいつらは結果だけ見てる」


 サッカー部に所属していた彼は小学生の時からずっとサッカーを習い続けている。時にはもちろん上手くいかない時があった、しかし練習の成果を出して誰かを抜き去るのが最高の快感であり、辞められなかった。


 周囲よりも出来て当然である、そんなプレッシャーを抱えながらあの時の授業を受けたんだ。


 「前言撤回だ、努力してきたわ。楽しくてそれが気が付かなかったけど、頑張ってたんだ、俺……」


 それに気がついた彼は不思議と出来るような気がした。後押ししてくれたのは自身の過去の経験、そして、


 「行き詰まったら、また読みに行こう」


 憧れの作家が記した言葉。

 自分が書いた言葉が誰かの希望になることをあなたは知っていますか?

 

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