第六話 終着点
あれから数ヶ月、今日も俺は小説を書いている。パソコンとにらめっこをして俺はキーボードを叩く。
「よーし、これで終わりだな」
俺は長きに渡って書いてきた「転生したら最強でした」を完結させることにした。させることにしたと言っても前々から考えていた順序を辿り、流れ着いたのだ。
総話にして381、結構書いた。どうせならキリの良い380で切りたかったがエピローグを書くと決めていたから1話だけオーバーしてしまった。
俺はマウスのカーソルを「投稿」というボタンに動かす。そこで左クリック、といきたいのだがこれを押したら終わる。
そう思うと押せなかった。
「くそ……このために書いてきたんだ、そうだ、物語は絶対に終わるんだ。そうそう、よし……ふーっ、よいしょ!」
俺は力強く左クリックを押した。しばらくグルグルとページを読み込んだ後、画面には「投稿されました」という文字が表示される。
これにて俺の代表作は完結だ。約一年半に渡って毎日投稿してきたんだが、よく出来たと思うよ。たまに二話投稿なんてこともしたが地獄を見た。
「あぁっ、また時間が……!」
俺は急いで立ち上がり、パソコンの電源を落とす。部屋の電気を消して部屋を出る。そしてバス停まで走る。なんとかギリギリのところで乗れた。
「ふーっ、あぶな」
いつのも定位置に着くと、俺は考える。
(やり切った感エグイなー、物語を完結させるのって満足感がエグいわ。脳汁ドパドパだわ)
バスに揺られながら俺は次に何を書こうか迷う。異世界ファンタジーをもう一作書いてみるか、それとも他のジャンルに手を出すか、他のジャンルなら恋愛だな。
だとしたら俺の書く恋愛小説はバッドエンドだな。主人公とヒロインが結ばれて終わるのがほとんどだけど、俺はそのご都合展開を破りたい。
そんなことを思っていると目的地にたどり着いた。俺はバスから降りてキャンパスに向かって歩き出す。すると毎度の如くあの男がやってくる。
「おーっす!」
「おーおはよう」
「完結させたみたいだな」
挨拶の次に発した言葉がそれだ。なんだこいつ、もう見たのか。いくら何でも早すぎだろ。もはや少し恐怖を感じてるが………。
「381話か、俺さどう完結させようか迷ってるんだよね」
「え? 考えてないの? 普通さ、初めと終わりを考えるもんじゃないのか?」
「そうする人もいるけど俺はなんて言うのかな、書きたい場面を点々と置いてそこから展開させてくから終わりはこれと言って決まってない」
「あーね、ハッピーエンドかバッドエンドどっちが良いの?」
「そうだなー、パッピーエンドが基本だけどさバッドエンドも面白そうだよな」
「バッドエンドならどうするんだ?」
「そうだなぁ、主人公殺しちゃう?」
「えぇ、大胆だな。まぁでも主人公が死なないっていう観点を壊すのは面白いね」
最近はずっと、こうして小説の構成案を一緒に考えている。正直、ネット上でしか小説仲間がいなかったからリアルでこの話ができる人がいて少し嬉しい。
「まぁいくぞ」
「あーちょ、待てってー!」
◇ ◇ ◇
「あー、どうしようかな」
大学の講義も終わり、家へ帰った。未だに俺は何を書くか決めていない。いや、というよりも少し休めば良いか。
だけどジャンルだけは決めておくかな。やっぱり恋愛か異世界ファンタジーだな。まあここまで絞ってあるから直ぐに決まるかなー、あ、そうだ完結したけどみんな読んでくれたかな。
「――――えっ、う、そだろ?」
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ありえないほどに伸びていた。今までとは比べられないほどに。
俺は手が震え、口元が緩んだ。恐らくこれが完結ブーストというやつだろうか。
「ははは、やっべぇ………なんだこれ」
俺は嘘じゃないかと思い、ページ更新のボタンをクリックした。数秒、ページを読み込み直した後、結果が出た。
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この数秒でなんと結果が変わっていた。物語の完結ってこんなにも反響があるのか……?
「やっば! マジでドーパミンがエグイ!」
これは今日は赤飯だな!! 俺はSNSを起動する。なにせ、通知が100件も超えていたのだ。
通知欄へいけば完結おめでとうという言葉で溢れかえっている。
その中にはもちろんあいつもいるし、かつて俺がいたコミュニティの奴らもいる。
今までこの人たちどこにいたんだよ。過去のpvから考えるにそんな数いなかったはずなんだけどな……。
「小説好きを自分を信じる……か」
あの居酒屋での出来事があったからこそ俺はここまで来れた。物語の終点である完結は確実にあれがなかったら出来なかった。本当に感謝だ。
「そうだ、俺の実体験を小説にするのはどうだ?」
そのジャンルは確か……私小説、だったか? うん、そうしよう。間話みたいな感じで、私小説を書くことにしよう。
つーかよ……さっきから通知まじで止まんねぇな。おめでとうというコメントとフォローの増加が凄まじい。逆にうるさいと感じるくらいだ。
「だけど、これが諦めずに最後まで書いた結果なら、文句はないな。有難く結果として受け取ろう」
今日も俺はパソコンとにらめっこをしている。
◇ ◇ ◇
数ヶ月後――――
「よーし、プロットはこんなもんだな」
たった今新しい小説のプロットが完成した。と、言ってももう連載は始まっているのだが。そう、俺は物語を投稿してからプロットが完成したのだ。まぁ本当は投稿したい欲に負けて出しただけだけどね……。
ジャンルは結局異世界ファンタジーにした。恋愛小説を書こうとか思ったけど、物語にスリル要素を入れたいと考えている俺にとってあまりあってなかった。
タイトルは「夢の中で異世界生活」、複数人で小説のタイトルを話している時に俺は気がついたことがある。それは、俺はタイトルをら考えるのがド下手ということ。
以前の「転生したら最強でした」もそうだがシンプル過ぎてもう少し捻った方がいいと俺は思ったが、読者や創作仲間からは「シンプルだから内容が読める」とのこと。
それはいい事なのか悪いことなのか……。まあいい事として受け取ろう。ネガティブに考えても仕方ないからな。
「お……またランクインか、というよりまだランキングに入れるのか」
「転生したら最強でした」を完結させて次に書いた数話の私小説が予想外に反響を呼んでいる。常にジャンル別のランキング上位に位置している。
「なんか、前まではランキングに入ることに終着して読者受けとか狙ってたけど、やっぱり自分の思いを素直に書く方が良いんだな」
最強でしたは前者で、私小説は後者だ。読者目線に立てとはよく言うが、逆に立ちすぎも良くないと俺は思う。それを意識しすぎて常に「俺が読む側だったら」なんて気にして、自分が書きたいものを書けないのはフラストレーションが溜まる。
全く、誰だそんなことを言ったのは。俺が思う小説とは自分の世界を広げてそれを浮観してもらうことだと思う。
確かに読む側の評価がー、とか言うけれど結局それを気にしすぎるとなんで自分が書いてるか分からなくなるからな。あいつの言った通り、伸びなくても小説が好きな自分を信じて歩き続けることが夢への一歩だと思う。
「うっわぉ、ひでぇ感想」
「生々すぎて逆に嫌だ、もっと表現抑えるとか考えないのかな」
「いやいや、生々しいからこそ刺さるんだろ。まぁでも感想ありがとな」
もちろんの事だがランクインするということは多くの人の目に止まって読まれやすくなる。読まれやすいということは評価や感想が貰いやすい。だが全てがいい感想とかでは無い、もちろん心無いコメントを書く人もいるだろう。
だけど、それを真に受けず「うわー、この人俺のためにわざわざ時間を削ってくれたのか。しかもアドバイスまでありがてー」
そんな気持ちで受け取るようにしてから俺は鋼の心を手に入れたみたいだった。
そしてそれだけでは無い。近日あげたばかりの「夢の中で異世界生活」も前作の読者が読んでくれているのかランクインしている。
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えーっと投稿して三日目? いや、今日で四日目か。
「マジでありがとな、みんな」
あの時、本当だったら俺の小説ライフは終わるはずだった。だけどあいつが俺を正しい道に戻してくれて、俺の心に火を付けた。
「あー、マジでおもろいし楽しい」
小説を書いている時はマジで自分が無限の可能性に溢れているように感じられる。シンプルに楽しい。
「あーなるほどね、そう考察してるわけか……残念だけど俺はそれを裏切るからね。それにもうラスボスは登場してるんだよね、それも第二話で」
最近はこうして書いてくれる感想を読んで考察を聞いたり、構成を変えたりしている。読者の意表を突くこともやりがいの一つだ。
「それじゃあ五話、書きますかー」
俺の夢は以前として変わらない。書籍化をすること、そして「あの男」を追い越すこと。俺はこれを目標に頑張っている。
もちろん読者からの評価というのも原動力となっているのだが、やはり一番俺に力を与えてくれるのは小説を書くのが楽しいと感じる自分。
そして、どんな状況でも置かれた場所で花を咲かせるという不屈の意地、それを力の源として俺は今日も書いている。
だから今ペンを折ろうか迷っている人がいるなら一度待って欲しい。評価も大事だけど自分が本当に望んでいることは何か考えて欲しい。
もし作品のアクセス数が0でも君の作品は駄作でないと気がついて欲しい。
もしアクセス数が1でもあるなら自分の作品を読んでくれた人がいることを忘れないで欲しい。なにより、君の作品を密かに楽しみにしている人がいることを忘れないで欲しい。
それが例え感想や評価など、目に見えて現れていなくてもそういう人がいるって知って欲しい。
作品のユニークアクセスを一度確認して欲しい。
出だしは誰もが同じ。君が憧れている作家も同じルートを通っている。ただ少し先の道を歩いているだけということに気がついて欲しい。
少ない話数で評価を得ている作品と自分の作品を見比べて肩を落とす必要はない。そこから学んで次に活かせばいい。
才能がないからと諦めないで欲しい。それは長年の経験が邪魔をしていただけであって君の文章やプロットが悪い訳では無い。
どうか逆境の中でも自分を信じて前に進んで欲しい。ランキング上位を狙っている人も、書籍化を狙っている人も、たとえ競争相手が上であっても憎まずにリスペクトを持ってほしい。
最後に、どんな状況であっても小説を書くこと、読むことが好きな自分を忘れないで欲しい。
「うーん、やっぱり最後の言葉なんかしっくりこないな……」
俺は今日も小説を書いている。夢にたどり着いてもそれは変わらない。