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第三話 もういいや

 ブロックしてから二日後。


 彼は小説を書くのをやめた。理由は簡単だpvや評価が貰えないのなら書く価値がないからだ。良く評価や感想はいらないので、なんて言って投稿している奴らがいるがそれらは全部嘘だ。

 いらないなら、投稿する必要はない。自分の中に秘めたままにしておけばいい。にも関わらず、サイトに投稿するの根源的欲求である承認欲求を満たすためだろう。


 俺はもう疲れた、日頃小説を書くために全てを捧げた。どうやったら俺はあいつらみたいになれるのか、俺もランキングに入ることが出来るのか。気がつけば朝になっていた、なんてこともあった。

 大学の講義もろくに聞かずに物語の妄想で終わることもあった。なんなら、行かない、という日が増えつつある。


 俺は力ない腕を小刻みに震わせながら自身の軌跡を見る。


 今日のpv 5

 総pv 1,495

 総pt 125

 感想 2件

 ブクマ 41


 これが一年続けて書いた小説の結果だ。結局、もう一件の感想についてもアンチコメントだった。それでもなお、筆を折ることなく俺は書き続けた。だって、明日、一時間、十分、いや一秒先の未来ではpvやptが1でも増えてるかもしれないから。

 そんな不確定要素の塊に期待を寄せてもそんなものは来なかった。


 「俺は……書く才能がなかったんだ……」


 四年間、思えば楽しかったと思っていたのは読み専だった二年間と書き始めた最初だけ。それ以降はずっとつまらなかった。

 だってpvが増えないんだから。それが増えないということはそもそもページが開いて貰えてない。ptや感想、ブクマが増えないわけだ。


 何がいけなかったんだろうな。タイトルだって人気作品と何も変わらないのに。


 よくランキングでも高い位置にいる作品は他の小説と変わらないものがある。なんならランキングに入ってない小説の方が面白いと思うことがある。でもどうして評価されるのか。

 それは書いている人の経験だ。


 例えば初めて小説を書く人とプロ作家がいたとしよう。その二人が全く同じ小説を書いて投稿したとしてもプロの方が多くの評価を貰える。

 こんなの誰でも知ってることだ。俺だって知ってる。だから数週間前に、短編の小説を書いた。ビギナーを抜けただろうと思い、投稿したのだが見るも無惨な結果だった。


 一日のpv 3

 総pv 21

 総pt 0

 感想 0

 ブクマ 0


 今日の結果だ。そう、今日だ。決して投稿初日とかではない。


 俺はランキングのページへ移った。ジャンルはファンタジーだ。


 「……また、あいつが一位か」


 もう見慣れたタイトルが一位にある。そのずっと下には俺がいたコミュニティで関わりのあったやつらの作品がチラホラ。うち一人の作品が見つからないから探していたら完結していた。

 完結したのは昨日。完結ブーストにより凄まじい増え方をしている。

 俺も……こんな未来を歩む予定だったのにな。


 ----先程の言葉を撤回しよう。俺が一番楽しかったのは、自分が書く小説の構成や設定を考えた時だ。自分の頭の中では書籍化もしてアニメ化もしていて無敵になっていた。

 だが、そうとは現実はそうはならず俺は途中で辞めることにした。


 「なんか……この四年という時間を返して欲しいな」

 

 もしもこのサイトに出会ってなかったら俺はもっと別のことで成功出来ていたかもしれない。勉強にしろスポーツにしろ、 仕事にしろ、他のことなら俺は大成していたのに。


 俺は壁にかけている時計を見る。時針は12と1の間を、分針は45を刺していた。もうこんな時間か、明日は大学に行こう。


 

 もう、学校を休む理由は無くなったからな―――



   ◇ ◇ ◇


 身だしなみを整えた。長いことパジャマのままだったから普段着に袖を通したことに違和感を感じる。

 俺は大学に向かう途中、抜け殻になったかのように歩いていた。いつもなら小説のことについて頭を悩ませ、次の展開や、最終話について思考をめぐらせていたがそれが無くなった。


 それによって今までしていたことが無くなり、暇になった。


 俺はバスに乗った。

 そこでスマホを取り出し、ホーム画面を見つめる。そして、指が伸びる。


 「――――っ!」


 俺が開こうとしたアプリは「小説を書いて読んでみよう」、どうやらいつもの癖らしい。大学に向かう途中でバスに乗る場合はプロットの作成や物語の続きを書いていた。

 バスの隅で小声で呻きながら頭を掻きむしったりしていたのを思い出す。

 はたから見れば変質者に等しい。通報されてもおかしくなかった。でも、それが楽しかった。

 

 「だから、良いんだって。もう終わったんだから」


 小声で自分に言い聞かせながら、音楽アプリを開き、イヤホンを耳に入れる。

 バスに揺られながら音楽を聴くこと数十分、目的地に辿り着きバスを降りた。

 大学のキャンパスはもうすぐそこだ。

 俺はイヤホンから流れる音楽を聴きながら歩く。久しぶりに歩いたからか足が痛かった。


 すると、後ろから誰かが走ってくる音が聞こえてくる。


 「おー久しぶり! お前何日ぶりよ!」


 「あ、ああ……久しぶり。風邪で寝込んでて……」


 「なんだ風邪かよー、体調管理しっかりしろよな。お前、今も少し顔色悪いぞ?」


 「え、ああ、大丈夫だよ。あんま長く休むと単位がね……」


 「それもそうだけど、やっぱり体調が大事だよ。病気なって入院しました、なんてことになったら手遅れだしな」

 

 「そ、そうだな。少しでも悪化したら無理せずに帰宅するよ」


 「おう、そうしろよ。なんかあったら言えば三秒でいくからな」


 三秒で駆けつける……俺はその言葉に引っかかった。なぜならその言葉は俺が書いていた小説の主人公の口癖にも等しいものだったからだ。

 あーだめだ、やっぱり四年間という年月はすぐには抜けられない。


 しっかりしろ俺、もう縁は切ったはずだ。これからは前を向いて生きないと……!


 「よっしゃー! 行くか!」


 「ど、どうした急に……」


 俺は大学のキャンパスに向かって走り出した。


 「教授、ここが分からないのですが」


 「お、おや久しぶりだね……どれどれ」


 俺はいつもは出席しない講義にまでも出て熱心にノートをとり、インプットをした。分からないところがあったらすぐに聞きに行く。

 友達が困っていたら助ける! 知らない人でも必ず助ける!


 「おばさん、落としましたよ!」


 「おやぁ、ありがとの……」


 「お巡りさん! お金が落ちていました!」


 「は、はい……」


 「喧嘩はやめましょう!」


 「だ、誰だよ……なんで笑ってんだ」


 「ボク! 迷子かい? お兄さんが助けてあげよう!」


 「う、うぇぇぇぇえんん!」


 帰る道中、俺は色々なことをした。いやー、気分が良いな。いいことをすると最高だ、無敵になった気分。


 俺は家に着き、自室に入るとパソコンが目に入った。いつもなら、カタカタと音を立てながら小説活動に勤しんでいたのだろうが、それはもう終わった。自由な時間が増えたんだ。


 ということは、


 「よし、ゲームでもするか!」


 俺は小説のせいで出来なかったゲームを十分に堪能した。

 

 「だぁー、マジか、そんなのありかよ、ん? えぇ?! もうこんな時間かよ!」


 気がつけばもう夜中の十時、風呂に入って飯を食って早く寝ないと。明日も大学があるんだ。

 俺は着替えを持ってバスルームに向かった。体を洗い、浴槽に浸かる。


 「ふーっ気持ちよき」


 俺は目を瞑った。風呂の温度が心地よくてついつい寝そうになった。


 「そういえば、風呂でも小説のこと考えてたなぁ」


 普通なら普段の疲れを癒す事ではなく、物語についてどうするか考察していた。そのせいでのぼせてしまうことだってあった。

 だが、その心配はもうないのだ。あいつとはもう無縁なんだ。


 俺は風呂を上がり、飯を済ませた。あとはベッドに入って寝るだけだ。時間はまだ日付が変わる前。


 「まだ十二、いや、もうそんな時間か……」


 いつもならまだ書ける、なんて言ってパソコンとワンツーマンで忙しかった。PCが恋人であるかのように毎日ベッタリだった。

 他のやつが見たら変なやつだとか思われるんだろうが、どうでもいいね。だってもう終わったことだ、昨日の俺と今日の俺はひと味もふた味も違う。


 「ふ、ふぁぁぁぁぁああzZZ」


 俺は家中の電気を消し、ベッドに入った。すると普段は全くやってこなかった睡魔がすぐに襲いかかってきた。

 正直、ベッドの中でも小説のことでいっぱいだった自分に驚く。寝る前ぐらいゆっくりしていれば良かったのにな。


 俺は重くなりつつある瞼を閉じるが、小説を書いている自分がフラッシュバックする。

 ひたむきにカタカタとキーボードの音を鳴らしながら、寝る間も惜しんでデスクに向かう自分。それを後ろから見ながら俺は口にする。


 「やめたらどうだ? 楽になれるぞ、いままで押さえ込んでいたものがドッと解放されてやりたいことができるようになる」


 そう言ってもこちらを振り返らずに画面とにらめっこをしている。暗い部屋の中、無心で何かに取り憑かれたかのように……。

 それを見て俺は少しイラついた。


 「叶わない夢を見たって意味がねぇんだよ、さっさとやめて現実に引き戻れよ! お前は小説家になんてなれないんだから!」


 「うるせぇよ……逃げたお前が偉そうに語るなよ」


 「はぁ?! 逃げたんじゃない、俺は冷静になって考えただけだ! このまま続けてもダメだ、あいつらみたいにはなれないって!


 だからお前もそんな夢を捨ててこっちに来い!」


 「そうやって自分に出来ないことを過去の自分に要求するのか? 夢をなんだと思ってる」


 「そんなものどうだって良い。俺は、未来のあんただ! 分かるだろ! 今の俺を見れば、小説を書くのをやめて自由になった! だからそんな夢はやめろ!」


 「あんた……哀れだよ、身の丈にあった夢を見ろって言いたいんだろうけど、それじゃあ意味がない。知ってるか? 夢ってな自分よりも大きいものを見るから意味があるんだぜ、あんたの夢も、俺の夢も大きくて実現不可能に見えるけど、あんたいい所までいってたんだぜ」


 「うるせぇよ……過去のお前に何が分かるんだよ!」


 「過去じゃねえよ、未来だ。俺はあんたの、いい加減気がつけよ、お前が今日やった行動は全て、終わってないものを終わったように納得させるためだったって」


 「――――っ!」


 「それじゃあな、()()の俺、未来で待ってるわ」


 そう言った直後、俺は目を覚ました。どうやら夢だったみたいだ。


 「……変な夢だ」


 重い瞼と腰を上げる。普段なら泡のように一瞬で消え失せる夢が、どうしてか忘れられなかった。時計を見ればもう朝の六時。


 「――――っ!」


 急がないと遅刻してしまう! 俺は急いでバックの準備や着替えなどをしてドアノブを握る。俺は扉を開けようか躊躇していた。

 振り返ってパソコンに目をやれば夢の出来事が目に浮かぶ。俺は扉の前に立って、背を向けている自分と会話をした。


 その会話がどうしても忘れられない。もしかして俺はまだ迷っているのだろうか、小説の世界に……


 いや、もう終わったんだ。俺の夢はもう潰れた、あの時に決心したんだ。やめようって、だから次の道を探さないといけない。


 「ふーっ、いくぞ俺」


 俺は扉を開け、大学に向かった。


 


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