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第二話 辛酸を舐める

 四年前の事だった、まだ俺もあいつも小説を書くのではなく読むのが面白いと感じていた頃。偶然だった、俺が新規アカウント作ったときにあいつは俺よりも数日早くSNSにアクセスしていた。


 とりあえず創作垢の人達は片っ端にフォローして回った。フォロバしてくれる人がほとんどだったが、中にはしてくれない人もいた。だが気にしなかった、それよりも小説好きの人達とのコミュニティができたことが嬉しくて、興奮していたのを覚えてる。


 「初めまして! 僕も読み専なんです!」


 そんな言葉から俺とあいつの関係は始まったんだ。お互いに読み専ということもあり本当によく気があった。当時、「小説を書いて読んでみよう」でヒットしていた作品は全てといっていいほど読み尽くしていた。

 

 だからこそ、埋もれている作品を読みに行きたい。そう思った俺はあいつにオススメはないか尋ねた。すぐに返信は返ってきた。それも五個くらいのおすすめ作品を抱えて。

 オススメポイントを熱く語ってくれたのを今でも覚えてる。戦闘シーンがアニメ化されて頭に浮かぶ、感情移入した、文体が丁寧、会話文が多いからテンポが良い、難しい表現が少ない、など一つ一つ丁寧に書いてくれた。


 実際に読んでみると言われた通りだった。全くといっていいほどの感想を持ち、俺は思わずブクマとポイントを投げた。他人の世界を覗くことが本当に楽しかった。


 それだけでは終わらずに俺はここが良かった、次はこうなるんじゃないか、いや俺は違う俺はこうこうこうで、なんて考察会を開くこともあって他人の考え方を聞いて、自分と比較するのが本当に面白かった。


 そんなやり取りが続いて早二年、自分の周囲にいる人達が小説を書いてみたいと言い出すようになった。当時の俺ももちろん自分で一度挑戦したいジャンルがあった。


 数あるジャンルの中でもワクワクとドキドキが止まらなかった「異世界ファンタジー」。非現実の要素に俺は魅了された。

 それは俺だけではなかった、俺やあいつも含め皆が同じ考え方だった。それぞれの方向性も似てるが、差別化要素があった。

 俺は最強スタートで、とあるやつは反対の最弱スタート、とあるやつは魔王スタート、またとあるやつは国王スタートなど、個性的で皆と一見違うが皆同じジャンルで投稿を始めた。


 俺たちは皆で同じ日に投稿しようと決めていた。同じ日に投稿して、読み専を卒業した気分などを語り合った。


 「正直読み専の方が楽だけど、自分の世界を広げていくのって面白いよな」


 「いや分かるわー、正直俺はもう戻れない笑」


 「俺は両立していきたいかな、困った時はお前らの参考にするよ笑」


 「でもファンタジーって競争が激しいから埋もれないようにらしないとな」


 「それな、だから読み専だった頃の自分を忘れないようにしないとだよな、書く側とはいえ読者の気持ちを考えられないとダメだからな」


 そんな話をしていた。「小説を書いて読んでみよう」には初期ブーストというものがある。だから数日分だけ溜めを作り、連続投稿をした。

 結果俺は他のやつらよりも多いpvを獲得したのだ。


 「すげーなお前、もう100pv達成したのかよ!」


 「まじか、俺が狙ってたのに!」


 「どうやってやったんだよ、教えてくれ」


 その時はまだ面白かった。こうやって俺の事を褒めてくれるやつらがいたから。それ以上に自分の作品を高く評価してくれる人が多かったから。

 俺は投稿開始数日にして一日のpv数100という目標を達成した。それが最盛期になるとも知らずに……。


 それから二ヶ月が経過したとある昼時、ランキングが更新されていることに気がついた俺はそれをチェックした。


 そこで俺は信じられないものを見た。


 なんと、俺以外のやつらの作品がランキング入りを果たしていた。それを見た俺は、あいつらのがあるなら俺もあるだろう、そう思って俺はマウスを動かしていった。

 だが、どんなにページを跨ぎ、下へ掘り下げても俺の作品は出てこなかった。仕舞いには100位に到達してしまった。ランキングは100位まで表示されるのだが、


 「俺のが………ない……?」


 そんなはずはない! 俺は、あいつらの中で一番人気だったんだ! 俺がただ見落としただけだ、大丈夫、俺だけが載ってないなんてことは無い!

 それを信じてもう一度、100位まで血走った目で探したが無かった。



 俺は、ランキングに入れなかった。


 

 その時俺は初めてあいつらと集まるのが怖いと思った。自分だけがランキングに入れなかったことをバカにされる、一番猛威を振るっていたのに……たった一回で俺は地の底に落ちた。


 だがここで引き下がってはダメだ、そう思った俺はいつもの集まりに入った。


 「今日俺ランキング入りしたんだぜ?!」


 「俺も!」


 「俺もだ」


 「まさかこんな早く入れるなんてな」


 皆がその話をするのは分かりきっていた。その場にいる全員がランキングの話をする度に俺は緊張して動けなかった。自分だけ入れなかったことが恥ずかしかった。

 同じスタート日、同じ話数、同じジャンル、いくつもの「同じ」を発見する度に俺は悔しさと嫉妬心で心が潰れそうだった。


 嫌気が差してその日は適当な嘘をついて離脱した。

 そんな中で唯一俺の異変に気がついたのが「ユラユラのユリ」こと、俺の一番仲が良かったやつだった。


 「気にしなくていい、ランキングなんて運要素もあるんだから」


 そんな言葉で俺を慰めてくれた。

 そうだ、運だ、運。たまたま今日入っただけで今後も入り続けるか分からない。不確定要素が多いんだから気にする事はない。


 ここから巻き返す才能が俺にはある。俺の作品は絶対に面白いから。皆がまだそれに気がついてないだけだ。そう思って俺は感謝のメッセージを送った。


 「ありがとう、俺も頑張るよ」


 「気にするなよ、お前の作品はいつか花開く時が来るから」


 俺もそう思っていた。人気作家の誰しもがこの道を通る。皆同じゼロスタートなんだ。彼らだけが投稿してすぐにランキング一位に輝いたんじゃない。入れなかった悔しさと向き合って作品とともに成長していったからこそ人気を得たんだ。

 

 「そういえばそろそろ一章も終わりだな」


 「そうだね、一章が終わるから読者への感謝のコメントを忘れないようにしないと」


 「律儀だなー、感想も毎日返してるのか?」


 「当たり前だ、小説は結局呼んでくれる人がいるから俺たちは書き続けられるんだ。たったの1pvでも感謝しないと」


 あいつは昔からそんなことを言っていた。ちょうどその頃からだろうか。俺とあいつのソリが合わなくなっていたのは。

 俺はこの時、気味が悪かった。たかが1pvでも感謝の念を持つ。あいつもきっと人気になればそんなことを思わなくなるだろうに。にも関わらず、そんなことを口にするあいつを俺は少し変ななやつだと思った。


 それから数日、やはり俺以外みんながランキング入りしていた。それも前回よりも着実に順位を上げている。俺はまだ一度も入った事がなかった。

 いつしかあいつらはランキング入りするのが当たり前になり、俺とは趣向が合わなくなっていた。


 投稿から三ヶ月が経過した頃、夜中に俺は試しにそのうちの一人の作品情報を見た。


 今日のpv 4,237

 総pv 113,127

 総pt 5,270

 感想 173件

 ブクマ 1,047


 対して俺のはというと


 今日のpv 19

 総pv 673

 総pt 73

 感想 0件

 ブクマ 31


 雲泥の差だった。いつの間にか俺とあいつらには大きな壁が出来ていた。SNSでのフォロワーも倍に膨れ上がり、毎日が忙しそうだった。

 だが俺はそれに憧れていた。忙しいと言っても自分の趣味に関することだ。だからその忙しさの中にも楽しいという感情があるんだろう、そう思っていた。


 「大丈夫、俺もいつかあいつらに追いつく、追いついて、また楽しく話せる、心配ない。俺の実力ならあともう少しでみんなに追いつく、うん大丈夫」


 その言葉を常に自分に掛けていた。それは悔しさや焦りを打ち消してくれる俺にとって魔法の言葉だった。


 それから一ヶ月、二ヶ月とどんどん時間が過ぎて行った。

 その間にもあいつらはどんどんと伸びていき、一方で俺はゆっくりとカタツムリのように伸びていた。


 今日のpv 31

 総pv 841

 総pt 83

 感想 0

 ブクマ 38


 伸びている、伸びてるんだ。そう、大丈夫。大丈夫だ、俺はまだ書ける。

 

 今日のpv 24

 総pv 940

 総pt 85

 感想 0

 ブクマ 39


 大丈夫、pvは減ってるけど……大丈夫、まだ読んでくれてる。いける、まだ………書ける。


 今日のpv 13

 総pv 1,111

 総pt 85

 感想 1

 ブクマ 39


 感想がついた! やっとやっとだ! 俺はすぐさま感想一覧のページに飛んだ、初めて届いた感想! やっぱり俺の才能は死んでない、ここから―――


 「文字が読みにくい、もっと間隔を開けて欲しい。あとキャラがブレブレで多重人格みたいでどれが本当の人格か分かりにくすぎ」


 「あ……ぇ」


 初めて貰った感想、待ちに待った感想がそれだった。「面白い!」、「続きが楽しみすぎる!」、などという感想ではなく辛辣な感想……。


 「は、ははは……打ち間違いだろ、そんなわけ……」


 俺はページを更新した。再びページを読み込み、新しい情報が画面に表示される。

 しかし、何度読み返しても、再更新してもそのコメントは変わらなかった。


 「なんだよ……それ、そんなわけ……ないだろ、俺の構成に、間違いは……ない、はず…………」


 俺は手が震えた。

 いつも通り、自分を安堵させようとする言葉をかけようとしたが俺は声が出なかった。


 本当は薄々気がついていた。自分には才能がない。自分がどれだけ最高傑作だと思っても読む側がその評価を与えるとは限らない。


 俺には才能なんてなかったんだ。


 そう思った直後、SNSから新しい通知が来た。俺はなんだと思いページを切り替えた。カーソルを動かしアプリを起動する。新着通知欄へと飛んだ。


 「は……?」


 その時、俺が目にしたものそれは---


 「おもてねこ先生とインタビューをさせていただきました」


 メッセージにはそう書かれていた。送信元は「ユラユラのユリ」。おもてねこ先生は「小説を書いて読んでみよう」で作家デビューした超有名人。そうあいつは一年という短い時間でその人とインタビューを受けるまで成り上がっていた。


 俺ももちろんその先生を知っていた。むしろ知らないはずがないからだ。現在完結済みのファンタジー小説で堂々の一位に長きに渡って君臨し続ける方。

 あいつが……あの男が……。


 俺は認めたくなかった。自分と同じ、一年前まで同じ立ち位置だった人間が、あのサイトを代表する作家に化けた。

 その時、またしても通知が来た。


 「インタビューでお前との話をしたいんだけどいいかな?」


 あいつからだ。俺はその時、怒りと嫉妬で視界が真っ赤になった。DMを開き、俺は指の先端に入れる必要もない力を入れてキーボードを叩く。


 「もう俺と関わってくるな、俺はお前が憎い」


 エンタキーを押した。一切の迷いなんてない。ふざけてる。ムカつくんだよ、偉くなったからって自慢か? インタビューで話をしてもいいか? 一年活動してお前の足元に及ばない人間の話なんかして何が面白いんだよ!!


 お前の周りにいる評価されている人間に聞けばいいだろ! わざわざ俺を選んだのは俺が一番の落ちこぼれだから煽りたかったんだろ!?

 ふざけんじゃねぇよ! こっちがどんな思いでやってると思ってんだよ!


 俺はそれ以降、あいつとDMすることは無くなった。

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辛酸を舐める……私自身PVが伸び悩んでいるので、自身と重なるところを感じました。 人を大切にしようと、改めて思いました。
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