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第一話 売れない小説家

 俺は机を叩いた。

 その衝撃で机が揺れ、キーボードの位置がズレる。モニターの画面も一瞬フリーズした。


 「くっそぉ……」


 画面に写っているのはとあるサイトの分析結果。

 俺は趣味で小説を書いている。きっかけなんて皆と同じだ。とある本を読んで感銘を受けて、実際に自分でも何か創作てみたいと、そう思ったからだ。


 かれこれ小説を書き始めて二年。俺は今分岐点に立っている。

 小説を書き続けるか、書くのをやめてしまうか。俺が書いている小説のジャンルは異世界ファンタジー。何故それを書こうとしたか、それは人気作家の小説、「異世界転生したけどゼロから成り上がってみせます」に触発されたからだ。


 俺の書いているジャンルは人気があり、作品は埋もれやすい傾向にある。そんなことは分かっていた。だけど、俺の実力ならいける、そう思っていた。

 しかし、実際にやってみると俺の思惑は大きくズレた。


 「またpv26かよ……なんでだよっ!!」


 俺の作品は全く受けていなかった。初期ブーストなんて言われるものがあるらしく初めこそpvが100を超える日もあった。しかし、それを超えることは一度もなかった。俺の最盛期はそこで終わったんだ。


 「感想も書かれてない……ptも増えてない……!」


 正直、作家に限らず心が限界を迎えそうになるのは承認欲求が満たされない時だろう。自分はこんなにも努力しているのに、周りはそれを認めてくれない。

 俺が初めて投稿した日から毎日欠かさずに更新している。


 お陰で投稿した話数は300を超えた。普通であれば話数が増える度に感想やpt、なによりpvも増えていく、はずだ。

 だが俺の作品は投稿する度に減っている。どうしてだ、何がいけなかった?!


 タイトルは「転生したら最強でした」

 総pv 1,467

 総pt 125

 感想 2件

 ブクマ 43

 

 評価ポイントは1~5、ブクマを押すと2pt増える。つまり俺の作品に評価ポイントを投げてくれたのは最大でも39人。二年も経過しているのにそれだけの人しか評価をくれない。


 もともと俺の使っている小説のサイト「小説を書いて読んでみよう」は感想やポイントが付きにくいことで有名だ。でも、俺ならいける。俺の考えた設定なら皆が読んでくれて、毎日ポイントや感想の嵐が巻き起こり、ランキングにも入って、書籍化もして、アニメ化もしちゃって、憧れの作家と縁を持ち、有名人になれるって……そう思ってた。


 俺は今年二十歳を迎える大学生。この作品を書き始めたのは二年前だが、このサイトを知って使い始めたのは四年前だ。つまり二年間は読み専だった。沢山のジャンルに手を出して、読んで、評価して、その二年間は小説に捧げたと言っても過言では無い。


 「……くそが、あいつはまた一位かよ!!」


 怒りが込み上げてきた俺は机に置いてある空のペットボトルを地面に叩きつけた。

 グシャという音とともに地を転がり、壁にぶつかる。


 今、「小説を書いて読んでみよう」のファンタジー界で人気な作品がある。著者「ユラユラのユリ」が書いた作品、「異世界転生したから気ままな生活を」というどこにでもあるタイトルのやつだ。


 そいつの作品情報を見るべく、俺はカーソルを動かしクリックする。


 「異世界転生したから気ままな生活を」


 今日のpv40,864

 総pv 9,843,676

 総pt 498,137

 感想 19,245件

 ブクマ 291,800


 今の時間帯は朝の七時、にも関わらずpvは脅威の4万、日付が変わって七時間しか経過していない。それなのにこの数。

 頭おかしいだろ!!


 加えて書いている話数は俺とほぼ同じ。そして、投稿した日に限っては俺と同じなのだ。それなのにこの反響。

 なにより俺はこいつのネッ友だ。俺がSNSで初めて創作垢を作った時の。アカウントを作ったのは一年半前。初期の頃はよくこの小説が面白い、これはオススメだの和気あいあいとしていたが最近は一切連絡をとっていない。


 というよりも俺が拒否しているのだ。最後にDMをしたのはもう一年半くらい前だ。

 それまではあいつも俺と同じド底辺の作家だった。突然のpvやポイント、ブクマの増加に余程嬉しかったのかあいつはよく俺に言っていた。


 「今日も5,000pv を超えた」

 「今日も感想がきた」

 「今日もptが増えた」


 もうウンザリだった。俺はきっと嫉妬していたんだと思う。自分と同じゼロからスタートで他人の作品を羨むことしか出来なかった奴が、才能がなかったやつが、今では人気作家となったことに。


 本当だったら俺がなるはずだった。あいつの居場所は俺のものだった。なのに……なのに!


 「ぁぁぁぁぁ!!!」


 わかってる。分かってるんだよ……どれだけ俺がアイツを羨んでその実績を虎視眈々と狙っていても、欲しいと懇願しても、決して手に入れることが出来ないって分かってる。


 でも、でも……


 「うっ……ぐっ………くそぉ………」


 涙が頬を伝う。


 悔しい、悔しいんだよ。俺はずっと……あいつが自分を離れて憧れだった人達との輪に入っていることが、羨ましくて、認めたくなかった。


 「なんで、なんでダメだよ……あいつのは人気なのに……俺のは……ぐっ……うぅっ」


 直ぐに人気なれるということではない。誰にでも下積み時代があることが分かっている。その下積み時代を素早く乗り越え、書籍化をする。俺なら絶対に出来るて息巻いてた……。


 自分で言うのもなんだけど俺は、勉強ができる部類だったんだぜ……成績も常にトップレベルで学年総合一位も取った。テストだって優秀だったし、先生にも沢山褒めて貰えた。文章を書くことにも自信があった。語彙力もあるし、どうしたら分かりやすくなるか自分で探して見つけたんだ。


 そんな自分だったから、才能を鼻にかけて小説を書いても直ぐに人気なって書籍化、アニメ化もすぐに出来ると思ってた。でも現実は残酷だった。


 一日に読まれる回数は50にも満たないし、感想も2件、pvも300話以上だしてようやく1,000を超えた。だが周りはどうだ?

 10話にも満たない少ない話数でpvは自分を上回り、感想も豊富で、ポイントに至っては同じ。じゃあ自分の苦労は何だったんだ?

 自分よりも少ない作業で自分以上の承認を貰っている。


 もちろん俺だってやれることはやった。誤字があるか、毎日投稿した方が良いってきいたから毎日寝る間も惜しんで小説を書き、隙間時間には構成を練る。そして投稿、他人の作品から学べって言われたから分析だってした。もしかしたら文が変なのかもしれない、だから何度も読み返した。


 その結果が26pvで125pt?


 なんでなんだよ……あいつらと俺の何が違う? 人との関わり? だった俺は負けてない、年月をかけて広げた輪は大きいはずだ。


 文章力? 俺は他人の作品を読んで吸収し、語学の勉強だってしてる!


 構成? 俺が一番力を入れてんだよ! 本当だったらやりたいことも捨ててどうやった面白いって思ってくれるか、どうやったら認めて貰えるのか毎日寝る瞬間まで考えてる!


 俺よりも評価されてるやつらがそれをやってるか?否! 絶対にやってない!! 俺はこんなに小説に捧げているのに……どうしてだれも認めてくれないんだよ!!


 「……もう限界だ」


 俺はSNSアプリをクリックし、DM一覧を画面に表示する。そこには俺が過去多くの人と関わりを持った人達がいる。だが、ここにいるほとんどが俺よりもサイトで高い評価を得ている。


 「クソ喰らえだ、お前らなんて知った事じゃねぇもうこれっきりだわ」

 

 俺は片っ端からブロックして回った。俺はこいつらに負けたんじゃない、こいつらが俺を見捨てたんだ。人気になったからって調子に乗りやがって、結局俺は都合のいいカモだったんだろ? ふざけんなお前たちなんかの思惑通りになって溜まるかよ。


 「……何が大丈夫か、だよ。お前のせいだわ、全部お前が悪い。お前が、俺の座るはずだった場所を奪ったんだ。元凶はお前だ」


 俺は一番仲が良かった「ユラユラのユリ」をブロックした。


 


 

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