7再生【強い言葉を遣うんじゃないわ。弱く見えるわよ】
――はっきよい。
わたしの声が力強く緊張を帯びた瞬間、ライブ配信の空気が突如として張り詰めた。
(これが……わたしのすべてッ! 最後は、一遍の悔いすら残さず全力でッ!)
――今、わたしは、あの夏の花火のように、一瞬にして夜空を裂く眩い閃光となる!
(見ていてね! “アノメン”のみんな! わたしは――リカは――)
「――改めて」
わたしは一呼吸置き、勢いよく声を張り上げた。
「いただきますっ!!」
そして、目の前に置かれた――甘く香ばしい香りを放つ“東◯カリ◯ト”の“煉蜜かりんとう”、最後のひとつをそっと口に運ぶ。
(――ふ、ふみゃあ!?)
至高の和菓子が舌の上でほどける瞬間、わたしの脳内ではニャンコの行司さんがひたすら『のこったのこった』を連呼している。
「こ、これは!? これはぁ――!?」
――我慢出来ずに、わたしは大きな声でそれを口にする。
「おかわりっ!」
ニコニコ笑顔でそう宣言した瞬間、どこからともなく軽やかな鼻歌が聞こえてきたよぉ。
「いっぱい食べるあんたが好き~♪」
そして、ここで現れたのは――ザコ中のザコ、スライム以下のアルティメットザコ、みんなのおもちゃ・ザコ先輩である。
「ちょっとあんた! 今めちゃくちゃ失礼なこと考えてたでしょ!?」
「え~、なんのことですかぁ。わたし、ザコ先輩のことはいつだって――年上ぶってるけど小物感あふれるザコだと思ってますよぉ? えへへへ」
「あーしに対してただ喧嘩を売ってるだけじゃない!?」
「いいからいいからぁ。そういうのいいですからぁ。早くコラボ配信始めましょうよぉ!」
「あんた、今日は珍しくあーしに対して舌が回ってるじゃない? 美味しいものでも食べた?」
――さすが、ザコ先輩。
抜け目ないザコ。
「ついでにおっぱいもまるでないツルペタザコ」
「へ、へぇー、その言い方だと、まるであんたの方が“ある”みたいじゃない……!!」
「えぇ~? そんなことないですよぉ! ザコ先輩のお胸には圧倒的に負けてますからぁ!」
「……りゃははは! それって、どっちの意味で言ってんのかしら? 詳しく聞かせてほしいわねぇ。ほら、早く教えてくれる? ねぇ……リカ……?」
ザコ先輩の声にじわりと怨念が滲む。
どうやら、ザコ特有のMPが底を尽きかけているみたいだ。
「ごめんなさい……。わたし、ザコ先輩と同盟を組みたかったんですぅ……」
「同盟って何よ? ザコ」
ザコ先輩が首をかしげ、思慮深げに呟く。
グラデーションがかった金と水色の髪が、さらりと揺れた。
「わたしたちで“黄金バスト”同盟を結ぶべきなのです! だって、んがちゃんもママさんも、あの二人はお胸が極端に大きい。それこそ、人の二倍も三倍も……ッ! あの豊満なる山脈を持つ彼女らに、このコンプレックスは決して理解できない。わたしの無念を分かってくれるのは、同じくツルペタ真っ平らのザコ先輩だけなのです……!」
「……いや、あーし、ツルペタ真っ平らじゃねーし」
「ザコ先輩だけなんです!」
「いや、だから! あーし、ツルペタ真っ平らじゃねーし!」
「……同盟、結んでくれますよね?」
わたしは真剣な眼差しでザコ先輩を見つめる。
その瞳には、曇り一つなく、ただひたすらにザコ先輩を“小馬鹿にしている”という、揺るぎない信念が宿っていた。
「わ、分かったわよっ! だから、そんなに哀しい目であーしを見るなっ!」
恥ずかしそうに横を向くザコ先輩に思わずドキリとしつつ、わたしはどこかぼんやりとこう言った。
「……おっぱいって、どこからきて、どこにいくんでしょうね」
「いや、知らんし」
「ザコ先輩」
「何よ」
「ありがとうございます! いつも後輩のわたしを可愛がってくれて……」
「ぷっ!」
ザコ先輩が突然吹き出す。
「りゃはははははは!!」
「な、なんですか! わたしは至って真面目に……!」
「……ツルペタ真っ平らって“感度”がいいの、知ってる?」
「へ?」
「あーしたちなら、きっと――“相性”がいいと思うわよ」
「え? え? え?」
思いがけない言葉に、わたしの頭はパニックになってしまう。
(“感度がいい”って……もしかして、あれのこと!?)
――ザコ先輩はやっぱり、“シテる”のかな。
心臓がドクドクと大きく脈を打ち、
“胸”が熱い。“心”が熱い。“密”が熱い。
(――正直に言って、それはそれでまぁ)
わたしだって一人の人間だし、ましてや――年頃の女の子だもん。
たまには“そういうこと”を考えたっていいよね。
その後もザコ先輩とは、卑猥なトークを笑いながら交わし続けた。
両隣の席で誰にも見つからないように、机の下で優しく手を重ね合わせるように――。