6再生【おどれら、わしがボケとる思うとるんじゃろう】
――昨晩。
徹夜でサイコーなロボットアニメを観たわたしは、その場のテンションで盛大なお菓子祭りを行った。
いい年をした女の子が何をやってるの?って話だけど、その時のわたしは身も心も祖国ニホンへ感謝の気持ちを伝えたかったのである。
もちろん“感謝のワンコダンス”も、それなりの時間ちゃんとこなしたということをここにご報告いたします。
ちなみに、お菓子の食べ過ぎでお腹がポンポコリンになったのは、ここだけの内緒だからね!
そして、ただ祈るようにお腹がペッタンコになるのを待っていると、ふとわたしの脳裏にある偉人の言葉が思い浮かんだよぉ。
『活動的な馬鹿より恐ろしいものはない』
ゲーテさん!!
――わたし、わたし!!
今、大事なことに気付けましたぁ……!!
わたしのポンポンペインは――全力のお菓子祭りからきたものだったんですねぇ!!
ここでわたしは、あるひとつの『作戦』を思い出した。
ドラクエでも言ってたよねぇ。
“いのちだいじに”って。
「よーしっ! それじゃ、今日もいっくよーっ!」
今日も今日もとて、わたしの気分は――ウキウキハレハレカンキカンキ!!
「わたしのしっぽはぁ!! “ごはん”を掴むしっぽだぁ~!!!!」
――絶叫。
今日のライブ配信は、わたしのサイコーにやっちゃいけないパロネタから始まったよぉ。
(お手ができれば、ごはんがもらえる。そういう者に、わたしはなりたい)
剥き出しの欲望を滲ませながら、猫又のような姿のわたしが、爛々と輝く瞳で画面に映し出される。
(にゅっふっふ、七年間のひきこもり生活を送ってきたワンコだから、面構えが違うよぉ)
『もっと賢くなれよ!』って言うのはなしだからねぇ!
既にもう『畏い』から!
「はいっ! みんなぁ、こんらりぃ~♪ ふふっ。ニャンコだと思ったぁ? 残念! 食いしん坊ワンコの“リリカル・リッツ・リリパット・リエンタール・リリム・リジョイス・リン・リ・リラージュ・リンカリンカ”、略して“リカ”だよぉ~!」
わたしはハイテンションで『よろしくねぇ!』と挨拶したあと、突然息を荒げる。
そして、目を潤ませながら『おくすり飲んでもいいかな……?』と、ひゅーひゅーと息を鳴らした。
「おい! リカっ!」
その瞬間、桃色に煌めく配信画面に映し出されたのは――黒髪ロングの清楚系美少女、しかもおっぱいがでかい“んがちゃん”だった。
「われ、どうしたんじゃ!? 声からして完全に様子が変じゃぞ!」
わたしは儚げに、薄くほほえみを浮かべる。
「……ケホケホッ。えへへ、わたし、もうダメかもしれないよぉ」
配信の前にあらかじめ用意しておいた胃腸薬を手に取る。
「リカ……! そんなこと言わんでよ、お願いじゃけぇ! われは絶対に助かる、だから、だから……! そんなこと言わんでよ……!」
涙をこらえるようにそう言うと、んがちゃんのふくらみが元気に揺れたよぉ~。
「わたしの“ポンペ”がさらにひどくなって、このまま身動きが取れなくなったら……」
「ああ! なんか言いたいことがあるんじゃろ!? なんでも言うてみんさい!」
「……ありがとう。あのね」
わたしは一呼吸おいて、それを静かに、そして丁寧に伝える。
「どうか、わたしの枕元に置いてある特大靴下に『なが〜いロールケーキ、ロールちゃん』をたくさん入れて欲しいんだぁ……。元気になったら、それを全部目一杯ドカ食いするからぁ……。あれ、めちゃくちゃ美味しいんだよねぇ……」
ガクリ。
――そして、わたしはエデンへと旅立って行ったよぉ。
「リカァァアーーーーーーーー!!」
んがちゃんの絶叫がヘッドホンを付けたわたしの耳をつんざく。
なお、胃腸薬を飲んだことにより、わたしの“ポンペ”は、驚くくらいすぐによくなりましたぁ。
「わし……! わしっ……!! 本当にわれのことがっ……!!」
何だかよく分からないけど、んがちゃんの声がすごーく震えてるよぉ。
「ん、んがちゃん……?」
わたしは恐る恐るんがちゃんに声をかけてみる。
――だけど、返事はない。
ヘッドホンからは泣き声のような音が聞こえ始め、わたしは咄嗟に大きく『にゃ~ん』と鳴きながら、モニターに映っているんがちゃんの顔をぺろぺろと舐め始めた。
はい。ここで一つ、正直に言うねぇ。
わたしも……自分で自分が本当に怖いよぉ……。
でもでも、ワンコが御主人様に愛情を込めてそうするように、わたしもそうしなきゃいけないと思ったんだぁ。
カチューシャの犬耳はしょんぼりと垂れていて、わたし自身もちょっぴりうなだれているよぉ。
「……リカ。わしな、われのことがほんまにスキなんよ。だから、冗談でも死ぬことを茶化すようなことはやめて欲しいんじゃ」
んがちゃんの切実な想いがよく伝わってくる。
「う、うんっ!」
「重たい女でごめんな……」
「そんなことないよ」
「こう見えて、実は体重二十五トンもあるんじゃがのぉ?」
「ちょっ! 待ってよぉ! それ、ガ◯ダムと一緒じゃん!」
「リカには隠していたんじゃが……」
「うん?」
「実はな、わし……、ハイパー・メガ・ランチャーも装備しているんじゃ……。だから、ほんまはめちゃくちゃ強いんじゃよ……!」
「だから、何なのよぉ!」
「わしが言いたいんはのぉ……」
「う、うん……」
ごくん。
――その時、ライブ配信に集まったみんなが、緊張と静寂に包まれたよぉ。
『盛り上がってきたねー』
『主にんがちゃんのクソデカ感情が』
『またどゆこと?ww』
『オマエのへそのゴマ、いただくぜ!』
『“りんがーな”にござる!“りんがーな”にござる!』
いつもわたしたちを温かく見守ってくれている、異次元のリスナーさんたちからの叱咤激励コメントに心が熱く震えるよぉ。
“もう、完璧だぁ”
『ふふっ。来なよぉ、んがちゃん!』
おへそのゴマは絶対にあげないけどねっ!
――そして、時は来たよぉ!
「やーい! なに深刻そうにしとるんじゃ、このアホたれー! わしはそんな弱い女じゃないけぇの! がながながな!!」
「最後のそれ、笑い声!?」
「われ、ホントに騙されやすいんじゃねぇ。画面の向こうで一体何しとったんよ」
「えっ! い、いや、そのぉ~!」
「変なやつじゃね。まぁ、ええわ。今日のコラボもまだ始まったばっかりじゃけぇ、リスナーのみんなに思いっきり楽しんでもらおうや」
「そ、そうだねぇ!」
――さっきのあれ、嘘に思えなかったんだけどなぁ。
なんか声に迫力があったし~。
で、でも、きっとわたしの考えすぎだよねぇ。
「――リカ」
「なぁに、んがちゃん」
「リカもザコ先輩もママさんも……いつもみーんな――」
「?」
“おどれら、わしがボケとる思うとるんじゃろう”
――追伸、ユリンユリン・イチャラブスキーさま。
今回のライブ配信は、そこでわたしの意識が途絶えています。
かろうじて思い出せるのは、わたしの心からの苦笑いと、乾いた笑い声だけ。
リスナーの皆様、どうか察していただけますよう、よろしくお願いいたします……。