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3再生【わたしの気持ち……聞いてくれる……?】

 穏やかで優しいBGMが流れる中、画面には丸っこくて愛らしいワンコが楽しそうにはしゃいでいる。


(……今日はメンバー限定配信。き、緊張するなぁ)


 わたしは「人」という字を手に書き、それを勢いよく飲み込む。


(……一、二、三! はいっ!)


 やがて、ほのぼのとした微笑ましい待機画面が切り替わり、煌びやかで華やかなライブ配信画面が現れる。

 そこには、猫又のような愛らしい姿で元気よく両手を振るわたしが映っていた。


「らりるれろ~♪ ニャンコだと思ったぁ? 残念! 食いしん坊ワンコの“リリカル・リッツ・リリパット・リエンタール・リリム・リジョイス・リン・リ・リラージュ・リンカリンカ”、略して“リカ”だよぉ~!」


 ごくん。

 音を立てて唾を飲み込んでしまったよぉ。

 だって、本当はガチガチに緊張しているんだもんっ!

 だけど、そんなことはおくびにも出さず、お決まりの口上を明るく述べるよぉ。


「今日はメン限配信だねぇ! わたし、楽しみすぎてあんまり眠れなかったよぉ!」


 ……半分は本当で、半分はウソ。

 正直、今日は本当に楽しみだったけど、でも、それと同時に、すごく緊張もしていたんだぁ。

 『ドキドキ』や『不安』、『そわそわ』が入り混じって、プレッシャーが半端じゃなかったんだよぉ。


「ふみゃ。早速だけど、本題に入るねぇ。わたしの“リカちゃんねる”なんだけど、なんとぉ~! ついにチャンネル登録者数が五千人を超えたのぉ♪ イェ~イ! ドンドンドン! パフパフ~♪」


『おめでとう』

『いつのまにやら』

『5000人おめでとう~』

『ハッピーやね』

『最推し』


 リスナーのみんなが、まるで自分のことのように次々とお祝いのコメントを書き込んでくれる。その温かさに胸がいっぱいになった。


「それでねぇ、わたし、今日は自分のことを少し話そうと思うんだぁ!」


 ……嫌われたらどうしよぉ。

 そんな不安が頭をよぎる。


「あのねぇ、わたし今十七歳なんだけど、実はひきこもりで、もう七年間も外に出ていないんだぁ♪」


 明るいトーンを崩さず、そのまま淡々と話を続ける。


「外にも出れないわたしがなんでVtuberになったかというと……きっかけは単純で、わたしのお母さんの妹、つまり叔母さんに『Vtuberにならないか?』って誘われたのが始まりだったんだよぉ~♪」


 重たい雰囲気にならないよう、鼻歌を交えながら軽やかに話し続ける。


『Vtuberに興味を持ったのはいつから?』


 いつも配信を見てくれている常連リスナーさんからコメントが書き込まれた。


「う~んとねぇ、ハマり始めてまだ二年ちょっとくらいかなぁ。でも、その二年の間に、みんなが驚くくらい、いろんなVtuberさんの配信を見たよぉ! だって、わたしはずっと自宅警備をしているひきこもりだからねぇ!」


 少しでもみんなを笑顔にしたくて、わたしは大きな声で『あはははっ!』と笑う。


『“ちゃんリカ”にとって、Vtuberとは?』


 さっきとは別のリスナーさんから、新たにコメントが書き込まれた。


「わたしにとって、Vtuberはねぇ、どんなときでも優しく温かく包み込んでくれる、“お布団”みたいな存在なんだぁ♪」


 きっと、この気持ちはリスナーのみんなには伝わらないと思う。

 それでも、わたしは小さく『ふふっ』と笑う。


「でも、Vtuberになるときは不安でいっぱいだったんだよぉ。ひきこもりのわたしに、あんな“神さま”みたいな存在が果たして務まるのかなって」


『Vtuberはそんなに甘いもんじゃない』


 ここでさらに書き込まれたコメントは、ちょっと辛辣だった。


「ふふっ、そうだよねぇ。実際、最初は何もかも手探りだったし、尊敬する先輩たち(みんな)のように面白いトークなんかも全然できなくて、歯がゆくて泣いちゃうことも何度もあったよぉ」


 少し間を置いて、言葉を続ける。


「でも、そんなわたしを心から応援してくれる温かいリスナーさんたちのおかげで、そして、ずっと憧れていた大好きなVtuber“んがちゃん”とコラボまでできるようになって、今のわたしはとっても幸せだよぉ~!」


 恥ずかしい。

 ちょっと声が震えちゃった。

 わたしの頭につけているカチューシャの犬耳が、パタパタと嬉しそうに上下に動いている。


『かわいい』

『推せる』

『幸せで嬉しい』

『良い……』

『マジ美少女』


 わたしの大切で大好きなリスナーさんたちから、たくさんのほっこりする温かい応援コメントが次々と寄せられる。


「みんな、ありがとうねぇ♪ ただ、わたしのVtuber活動はまだまだこれから。これからも『毎日はこんなにも楽しいんだぞぉ~!』っていう“日々の面白さ”をみんなにお届けしたいなって思ってるんだぁ!」


 そして、少し言い淀んでから、わたしはさらにこう続けた。


「願わくば――。ううん、ごめんね。それは今話すことじゃないやぁ」


 そう言って大きく深呼吸してから、わたしは笑顔で今回のライブ配信を締めくくることにした。


「まだまだ駆け出しの新人Vtuberだけど、精一杯あなたに愛をお届けしちゃうので、これからも温かい応援よろしくねぇ! それじゃ、またの配信でイチャイチャしよぉ! にゃあと鳴いたら、すってんころりん! 皆さん、おつらりぃ~♪」

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