2再生【朝チュンの定義って何だと思う?】
――テステス、あ~あ~。
(よしっ!)
自分でも可愛いと思う猫又のような見た目のわたしが画面に映し出される。
「らりるれろ~♪ ニャンコだと思ったぁ? 残念! 食いしん坊ワンコの“リリカル・リッツ・リリパット・リエンタール・リリム・リジョイス・リン・リ・リラージュ・リンカリンカ”、略して“リカ”だよぉ~!」
頭につけているカチューシャの犬耳がパタパタと上下する。
「さーて! 今日も張り切っていくよぉ! まずは本日のゲスト~!!」
ドコドコドコドコドコドコ――!!
「もしかしたら、みんな気付いてるかもしれないけど、今日のゲストもこの人に来てもらったよぉ! Vtuber界の恐怖の大王こと、アスタラビスタベイベー『んがちゃん』だぁ~っ!」
わたしは「イェ~イ!」と言いながら、上半身を大きく揺らした。
「おどりゃあ、誰がVtuber界の恐怖の大王じゃ言うとんじゃ! えー、毎度お馴染みの『おどれに銃と殺意をお届け、仁義ある“慈良んがな”じゃ☆」
二人で仲良く大きな声で「よろしくー!!」と叫び、ライブ配信が本格的にスタートした。
「あのね。実はさぁ、わたし、そろそろ……んがちゃんと“朝チュン”してみたいんだぁ!」
「いきなり何言いよるんなら、おどりゃあ。鼻息が荒かろうが」
んがちゃんの声音には『やれやれ』と言いたげな呆れがにじんだ。
「むぅ! それじゃ、んがちゃんの“朝チュン”の定義って何よぉ? わたしに教えなさいよねぇ」
んがちゃんは少し考えるような素振りを見せて、短く『んー?』と唸った。
「早朝にパピプペポップが鳴いとる様子を表しとる状態じゃ」
「何よそれぇ!? てか、パピプペポップなんて初めて聞く生き物なんだけどぉ!?」
「知らん? パピプペポップ。空飛ぶ小さいおじさんで『ゆいがどくそん』って鳴くんじゃが」
「小さいおじさん!? しかもチュンチュンですらないじゃん!」
突っ込まざるを得ない独特すぎるんがちゃんのトーク力に、思わずニャンコみたいに『あお~ん』って叫んでしまった。
「逆に言うたら、チュンじゃのうてもええんじゃないか?」
んがちゃんが意地悪そうに笑みを浮かべる。
「どういうことぉ?」
「×××じゃろうが〇〇〇じゃろうが△△△じゃろうがええんじゃないかいうことじゃ」
放送禁止用語を気にする素振りもなく、んがちゃんはさらりと言い放つ。
「ちょっ!? 待って待ってっ!! きみ、バカなのぉ!?」
わたしは大慌てで、んがちゃんの発言に待ったをかける。
でもでも、んがちゃんの猛攻は終わってくれない。
「さらに言うたら、われの首を絞めたような声でもええんじゃないかってこと」
「いきなり怖いこと言わないでよぉ!」
「いや、鳥の首を絞めた時の声ってなんかゾクッとせん?」
んがちゃんがムフフと怪しげな声を上げる。
「サイコパスなのぉ!?」
わたしはあらん限りの声で思いっきり叫んだ。
「えへへ」
んがちゃんは照れたように肩をすくめる。
「褒めてないからね!?」
「……まぁでも、われの声を聞くんじゃったら、やっぱりその甘ったるい猫なで声がええかな」
突然、んがちゃんが頬を真っ赤に染める。
「んがちゃ~ん!!」
ごろごろと喉を鳴らすような特別甘ったるい猫なで声で、んがちゃんの名前を大きく呼んだ。
「わしたち朋友じゃろ?」
「うんっ!」
わたしが満面の笑みで大きく笑うと、んがちゃんも続いて顔いっぱいに笑みをたたえた。
けど――。
「今からでも入れる保険、あるんかな?」
「それ、別の意味で重たいやつだよぉ! てか、致命的にダメなやつだよぉ!!」
わたしはアチャーと言いながら、目と口をバッテンにした。
「じゃあ、逆に聞くが、わしがわれのこと大スキって言うたら、どうするんじゃ?」
「えっ!?」
「何じゃ」
「そ、そこは、生涯の伴侶として、盛大な結婚式を挙げようね!」
モジモジとしながら、半音下げた声でそう答えるわたし。
「付き合うん飛び越えて、いきなり結婚なんか!」
「あー、ブライダルドリームが広がるなぁ」
悪そうな顔でニシシと笑う。
「そのまんまこの世の果てまで広がって、帰ってこれんようになりゃええのぅ」
「なんか他人事だけど、その時はんがちゃんも一緒だからねぇ」
「われと二人きりの世界かよ」
「また、どうせぇ」
「……それも悪うないな」
「へ?」
一瞬の間が訪れる。
「何じゃ?」
「な、なんでもないよぉ!」
――あれ?
あれれ――?
いったいどうしちゃったのぉ、わたし!?
なんかおかしいぞぉ??
んがちゃんは今、何を言ったのぉ!?
ライブ配信画面に映る黒髪ロングの清楚系美少女をじっと見つめる。
ん~?
……いや、いつものんがちゃんだよねぇ。
(多分、んがちゃんも合わせて言ってくれたんだよね)
わたしの百合はあくまでお仕事なのだぁ。
さて、今回のまとめ。
俗に言う『朝チュン』とは、パピプペポップが『ゆいがどくそん』と鳴く状態を指す――以上、ここにお伝えしましたぁ。