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6.

 小さく頷いた坂本に話を聞くにも、ここでは周りの目も憚られる。

 

 坂本を立ち上がらせて、恭介と共に千夏は近くの部屋に案内する。女子トイレから一番近いこの部屋は、参列者の控室だからか随分と広い。入り口近くには受付と、バーカウンターがある。部屋の中央にはいくつかテーブルが置かれていて、その上にはピンチョスが置かれたままだ。トマト、サラミ、エビ、ブルーベリー。色とりどりだったのだろうが、今は真っ白い皿の上に所々にしかない。乾いている様子からすると、置かれたのは随分前だろうか。もしかしたら披露宴前に振舞われたのか。

 

 壁際に置かれていた椅子に坂本を支えるようにして座らせ、近くにあった椅子を引き寄せ、千夏は坂本に向かい合うように座る。恭介は何故か坂本を横から支えるように座っている。

 

 一体この人は何がしたいんだか。千夏は気持ちを引き締め直す。

 誰が犯人かはまだわからない。

 誰にも隙を見せてはならない。常に、心に迷いなき正義を。


 かつて刑事ドラマで聞いた名台詞を心で唱えてから、千夏は坂本と目を合わせる。


「顔、怖すぎ。あのね、そんな怖い顔してたら、怯えて話してくれないよ。ねぇ、坂本さん」


 馴れ馴れしい口調で、恭介は坂本の手をそっと取る。優しく微笑むその顔は、少女漫画の王子役かと思うほどだった。


「坂本さん。あまり緊張せずに、見たもの聞いたものをそのまま教えてくれれば大丈夫ですから」


 坂本は要領を得ず、軽く頷いた。恭介は坂本の様子を気にする様子もなく、長い足を優雅に組みなおしてから、坂本に問いかけた。


「ここにあるピンチョスは花嫁さんの希望だったんですか?」

「え、ええ。来賓の方々に喜んでもらいたいっておっしゃっていました」

「定型プランにこういう喜ばれるものがあるんですか?」

「い、いいえ。大変こだわりがある方だったので、オプションもだいぶ悩まれていました」

「プランの内容で旦那さんと揉めていたりは?」

「い、いえ。基本的に奥様が希望されるものは取り入れておりましたが、予算との兼ね合いで難しいものがある場合はお二人で仲良さそうに相談されておりました」

「例えばどんな希望を?」

「ええっと、バーカウンターを用意するとか、デザートをビュッフェ形式にするとか」


 完全に主導権を恭介に持っていかれてしまっている。千夏は、鞄から手帳を取り出し、坂本の話をメモしていくしかなかった。


「最近の結婚式は、いろいろ選べるんですね」

「ええ、今回のご夫婦のように料理の内容を細かくチョイスする方も多いです」

「ほほう。料理まで。それは大変興味深いですね。ホテルメイドの料理を好きに選べるとは」


 ようやく落ち着いてきたのか、坂本の顔色が少し戻ってきたように見える。胸に手を当てながら、坂本はか細い声で答える。


「個性、というのを当ホテルでは特に重んじていますので」

「なるほど。ちなみにですが今回の料理のメニューはありますか? もちろんオプションも含めて」

「え、ええ。すぐにお持ちします」

「あ、できればお打ち合わせ時のメモもあると助かります」


 かしこまりましたと、坂本は一礼してから、小走りに部屋を出て行った。


「メニューまで確認する必要ありますか?」

「ここの料理……もとい、デザートはティールームでも評判だし、何か新作のメニューがあればそのうちティールームにも置かれるかもしれないじゃないか。なによりオプション内容が非常に気になるね」

「それは、つまり趣味ということですか」

「まぁね」


 呆れた上司だ。千夏は肩をすくめてから、参列者の一覧を見る。次に訊くべき相手は定石通り考えるしかないだろうか。

 どうすればよいか考えているところに、恭介が横からのぞき込んできた。


「次は定石どおりに参列者への聞き込みかい?」

「え、ええ。それで、あの」

「頑張ってね、千夏くん」


 一日にさばける量ではないのをこの上司は本当に理解しているのだろうか。

 うなだれたくなる気持ちを何とか殺しながら、千夏はどうすれば最短で話を聞き終えることができるかを考えなくては。それには、まず。


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