5.
振り返ると、暇そうに千夏を見ている恭介がいた。
期待をしているのか、していないのかわからない恭介の声に、千夏は奥歯を軽く噛みしめる。映像世界にいる名探偵や名刑事ならば、遺体を見るだけで何かしらのヒントを得ているはずなのに、千夏にはわからない。
千夏は死体を見たまま、首を横に振った。
「そうか。次は?」
「ええと、参列者から話を聞こうと思います」
「百人いるけど、どうするの? 効率重視でお願いね」
無茶を言ってくれる。
千夏はごくりと音を鳴らしてつばを飲み込んだ。
地味婚が多い言われる昨今、これだけの人数を集められるのか。
一人ひとり話を聞き始めたら、夜どころか明日の朝になってしまいそうだ。
腕を組んで悩んでいると、恭介が口を開いた。
「さきほどウェディングプランナーから出席者リストを入手した。これを見て、あまり時間をかけない方法を考えて。あんまり遅いとここのアフタヌーンティ―のラストオーダーに間に合わなくなる」
なんとも身勝手な最後の恭介の言葉に、千夏は思わず眉根を寄せた。
差し出されたリストは、A4用紙数枚にわたって名前・性別・住所・特記事項が羅列されていた。特記事項には、妊娠中であること、アレルギーの有無などが記載されている。
「結構、細かい情報ですね。アレルギーとか」
「気配り、心配りのためだろうな」
ある程度理解はできるが、こういうのも結婚式を催すときには作らないといけないと思うと、葛根式の準備は大変だったと愚痴っていた同期を思い出してしまった。
「ウェディングプランナーさんからお話、聞けますか?」
「親族ではなく?」
「面白いね、君は。早速呼ぼうじゃないか」
喉の奥でくくっと笑いながら、恭介は現場を去っていく。千夏は後について行こうと思ったが、もう一度振り返り、死体に手を合わせて誓った。
――必ず犯人を捕まえます
所轄の刑事になった時に、先輩刑事に教わったことだった。亡くなってしまった被害者のためにできうる限りのことをする。それが刑事の仕事だと。
千夏は、我妻に礼を行ってから現場を出る。女子トイレを出ると、披露宴会場から恭介が黒いフォーマルなスーツを着ている女性をエスコートしてきた。優秀な上に、仕事も早いことに、千夏は軽く目を瞠った。エスコートされてきた女性は真っ黒な黒髪を夜会巻きにし、首元はすっきりとさせている。自分が担当していた披露宴がこんなことになったからか、顔色がずいぶん悪い。
「こちら、ウェディングプランナーの坂本さん」
坂本は恭介に支えられるようにしながら、近くのソファに座った。その隣には恭介が腰かける。なぜ恭介が既にこんなにも親しげにできているのか千夏にはわからない。人たらしなのだろうか。
怯えた表情をしている坂本が少し顔を上げたところで、千夏が目線を坂本に合わせて、警察手帳を見せる。
「こんな大変な時に、申し訳ありません。青木と申します。早速ですが、お話をお伺いできればと思いますので、ご協力をお願いします」




