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3.

  今から何を言われるのか皆目見当がつかない中、千夏は記憶の底から同僚のこんな言葉を思い出した。


 ――赤城恭介は警視庁随一の名探偵。彼の下についた部下はことごとく推理させられる。


 通常の警察捜査というのは、人数をかけて、証拠品や目撃情報、被害者の交友関係を調べ上げる。そのうえで、チームで犯人を見つける。

 しかし、噂通りならば、特殊捜査班は、通常の捜査課とは異なる。ドラマで見るような捜査本部に詰めることはない。

 とある上層部からの指示があった時だけ、捜査現場に臨場し、二人だけで短時間で事件を解決しなければならない。鑑識作業は鑑識課が担当してくれるが、協力してくれるのは少人数。それも、上層部から指名を受けたものだけ。


 これまで都内で難事件として世間で報道されたほとんどを恭介一人で解決してきた。捜査一課のエースとして活躍をしていたようだが、その奔放な捜査手法は従来の方法とは一線を画していると。

 その自由奔放な捜査方法についていくことができず、恭介の下についた部下は何人も異動もしくは退職したらしい。


 当たり前だ。

 捜査はチームだ。警察学校でも、刑事講習でもそう教わった。


「君には今からここで捜査をし、犯人が誰かを推理する。もちろん、刑事だからきちんと証拠をそろえたうえで犯人を僕に提示するように」

「なにを」


 言っているんだ、こいつは。

 そう言葉が続きそうになるのを、千夏は慌てて言葉を飲み込んだ。

 だが、どうしても恭介が冗談を言っているようにも見えない。


「僕はこれまで同じように捜査をしてきた。ここに異動してきた以上、千夏くんにも同じことを求めるからね」

「それは、刑事ではないです」

「捜査手法に拘っていれば、犯人を取り逃し、世に放ったままになる。そうすれば一般市民は警察への不信感はもちろん、生活するのも不安を抱えたままになる。その状況は警察官としてあるべき状態ではない。だから、何としてでも犯人を当てる必要があるんだよ」


 わかるかな、と首をかしげて言われた千夏だが、納得しかねる部分はある。それは、ひとえに恭介があまりにも優秀すぎるがゆえなのだろうか。

 これまで選ばれたのは、噂によれば全員警察学校でも特に成績優秀な人材ばかりだった。それでも、彼にはついていけなかった。


 どうして千夏にその席が回ってきたのかはわからない。それでも、憧れていた捜査一課に異動になったのだ。そして前日から実施テストがある。何とかして成果を上げなければ本庁の敷地に足を踏み入れることも許されなさそうだ。

 千夏は一呼吸してから、気合いを入れ直し、恭介を見た。千夏の顔つきに満足したのか、軽く頷いてから恭介は話を続ける。


「現場は女子トイレ内の個室の一つ。被害者は、花嫁の吉田亜美だ。あおむけの状態で胸をアイスピックで一突き。遺体はまだ中にある。事件関係者はそこの披露宴会場で出席していた百名。その人たちは、会場内に留まってもらっている」

「外部班の可能性は」


 バッグから手帳を出しながら、千夏は恭介に問う。


「ないね。既に防犯カメラも確認済みだ。死亡推定時刻から少し余裕を持たせた時間の防犯カメラには、式の関係者以外は映っていない」


 さすが優秀な人は、仕事が早い。千夏は恭介が話す内容を一言一句漏らさず手帳に書き記す。そういえばと、千夏は顔を上げた。


「なぜ、我々が臨場しなければならなかったのですか」


 通常殺人は強行犯捜査係が担当している。しかし、千夏が所属する予定なのは、特殊捜査班。探偵が必要そうな現場には今のところ思えない。


「関係者の九割が警察官だからだ」


 恭介の簡潔な言い方に、手が止まった。

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