後日談 ep.3
「相変わらずだねぇ、あんたは」
白で統一されたパティスリー・タカナシの店内で恭介と向かい合って、パフェを食べていた我妻は呆れた声で言った。
「別に僕一人でも事件解決することはできるけど、基本は二人一組。そこは守るべきかと思ってのことだよ」
ワイングラスのような曲線で形作られたパフェの器の淵には一口サイズ程度のミルフィーユが乗せられている。器の中にはビビッドな赤が幾層にも重ねられ、一番上にはバニラアイスが乗せられていた。
どう食べたものかを悩まされていた我妻は恭介の動作を観察した。ミルフィーユを小皿の上にフォークとナイフで丁寧に置き、ミルフィーユで隠されていた器の中を丁寧にスプーンですくい上げた。
一口入れただけで、恭介は相好を崩した。
「んー、これだよ、完璧というのは。甘さ、酸味、触感、見た目。どれ一つかけても完璧にはほど遠い。やはり、パティシエ・タカナシはパフェの創造主と言われるのにふさわしい」
「あのさ、どうしてフォルダにパスワードなんて仕掛けたのさ」
「……ん? 簡単なことだよ。僕たちが担当するような事件は、この日本ではそう簡単に発生しやしない。頭脳は一度楽なことを覚えてしまうと、次第に堕落していく。つまり、常に鍛える必要がある」
「それが、今回のパスワードってこと?」
「こんなのは序の口だよ、我妻。彼女が、僕の仕事についてこられるようならば、僕も全力で受け止めようじゃないか」
「……具体的に何するつもり?」
「古今東西の推理小説や映画、ドラマから抽出した捜査方法と推理手法について学んでもらい、それを学んだところで、実際に解決に難航した事件を元に、推理してもらう。そこから」
スイーツと同じくらいの熱量で語る恭介を見ながら、我妻は軽く肩をすくめた。
「……ほんと、バカな奴」
これから目の前のバカに振り回されながら、仕事をする千夏に我妻はあまり苦労しないことを祈りながら、パフェの器の淵に乗せられていたミルフィーユを豪快にひと口で食べた。




