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後日談 ep.2

 一体何だろうか。首をひねって考えても、答えが浮かばない。それよりも、同じ職場の相手にパスワードすら謎解きのようなことを仕掛ける上司とは思わなかった。

 これも名探偵になりきって解かなければならないものらしい。

 書類を提出しなければ帰宅はできない。面倒だが、千夏はパソコンを前に腕を組んで考え始めることにした。

 提示された謎のキーワードはシンプル。連想ゲームでもさせたいのだろうか。

 赤城恭介と言えば、スイーツ好きの優秀な刑事。そんな彼が避けるべきもの。

 

 思い当たるのは、スイーツ関連だろうか。


 スイーツビュッフェや有名パティスリーは、スイーツ好きの恭介ならば何があろうとも行かなければならないとシチュエーションに当てはまらない。

 

 首をぐるっと回して、部屋の中を見回してみる。改めて、ここは仕事部屋らしく無い。何か手掛かりのようなものはないだろうか。千夏は席を立ち、部屋の中をゆっくり歩いた。

 

 食器棚には、埃一つ許さないくらいキレイにされたティーカップが整然と並べられていた。一つ一つ意匠がことなり、どれも普通の公務員が買えるとは思えないような値段のモノだろうと簡単に推測できる。

 食器棚にも冷蔵庫にも特に妙なものが置かれていなかった。ヒントになるものが見つからないと言うことは、スイーツに関係するキーワードではないのだろうか。


「赤城恭介が、避けるべきシチュエーション……」


 問を何度も何度も言葉に出して、首を傾げた。


「仕事のことかなぁ」


 ここ、警視庁捜査一課特殊捜査班の役割は、事件の早期解決。他の刑事課とは異なり、名探偵であることを求められる。


「この場合の避けるべきシチュエーションって……事件が解決できないこと?」


 ならば。

 千夏はパソコンの前に座り直し、キーワードを入力する。


『未解決』


 エンターキーを押すが、ブーピー音が部屋に鳴り響いた。それと合わせて、画面には『入力できる回数はあと一回』と表示が出てきた。


「回数制限があるんかいっ」


 画面に向かって、思わず突っ込んでしまった。はぁっと大きめのため息を吐いて、パソコンの前に突っ伏した。パスワードを仕込んだ主の机を見た。目を細めて、じっと机を見た。整理整頓された机の上に一冊の冊子が置かれていた。ちょうど背表紙が見えたが、犯罪・捜査英語辞典と書かれていた。

 仕事に関係なさそうな辞典を持ち込んでいたとは。恭介の斜め後ろには本棚があるので、そこに戻そうと席を立ちあがり、辞典を手に取った。英和辞典よりも軽かったこともあり、ぱらぱらと中身を見ると、洋画のミステリーで出てきそうな単語が並んでいた。一体この用語たちを日常で使うことがあるんだろうか。


「そう言えば、なんでこれだけ英語なんだろう?」


 文面としてはおかしくはないが、どこか違和感を覚えた。


 もしかして……。


 千夏はパラパラと辞書を引いた。目的の単語を見つけて、入力画面に打ち込んでみる。ここで間違えても死ぬことは無い。フォルダに格納できなければ、明日恭介に謝罪するだけだ。


 軽い気持ちでエンターキーを押すと、ぱっとフォルダが開いた。そこには各種書類を格納するためのフォルダが分けられており、几帳面さが伺えた。


「……当たった……そっか、whodunit……迷宮入りだったんだ」


 パチパチと頭の中で何かが弾けた。解けて、かつ、正解できた。それが妙な快感を千夏に覚えさせた。高揚する気持ちを押さえながら、千夏はフォルダに書類を格納して、知らず知らずのうちにガッツポーズをしていた。


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